著者
松井 求
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.30-57, 2021 (Released:2021-10-05)
参考文献数
194

分子系統学は生物学の基盤であり、我々は情報から生物学的知見を取り出す過程で、その恩恵を陰に陽に受けてきた。同時に、分子系統学は革新的な手法やソフトウェアの開発が新たな分野の開拓に直結する、アルゴリズム・ソフトウェア開発者の桧舞台でもある。例えば、1987年に登場した近隣結合法は大規模なTree of Lifeの構築を可能にした。また、MAFFTやIQ-TREEといった高速かつ高精度なソフトウェアは、BLASTが情報生物学の基盤技術であるのと同様に、進化学を下支えする必要不可欠なインフラとなっている。本総説では、まず分子系統学を構成する「標準手法」の理論と実装を解説する。さらに近年勃発した「標準手法」をめぐる論争をまとめ、最後に、現時点でできる最善の分子系統解析アプローチについて議論しながら、将来の生物情報学者、進化学者、アルゴリズム・ソフトウェア開発者をこの魅力的な分野へといざないたい。
著者
森脇 由隆
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.47-60, 2022 (Released:2022-11-01)
参考文献数
61
被引用文献数
1

タンパク質を構成するアミノ酸配列からその安定な立体構造を予測することは、生命科学の研究において非常に重要な意味を持っている。このために多くの実験研究者は60年以上に渡って1つ1つのタンパク質の構造を決定し、計算科学者は30年以上もの間、立体構造予測の技術を進化させてきた。2020年11月30日にDeepMind社が発表したAlphaFold2は、わずかな時間でアミノ酸配列からその立体構造を極めて高い精度で予測できることを示し、さらにはこれが2021年7月16日(日本時間)に無償で一般に使用可能となったことで、生命科学全般の研究に大きな影響を与えた。本稿ではAlphaFold2に至るまでの歴史的経緯、その予測手法、AlphaFold2が与えた影響と将来の展望について紹介する。
著者
松前 ひろみ 神保 宇嗣 仲里 猛留 畠山 剛臣 大林 武
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.88-114, 2022 (Released:2022-12-21)
参考文献数
118

本稿では、これまで独立に発展を遂げてきた次の3つの領域を組み合わせ、新しい生物学のあり方を模索する:(1)遺伝子を中心としたバイオインフォマティクス解析、(2)生態系における個体や種の情報を扱う生物多様性情報解析、(3)生物たるヒトが生み出した文化情報の解析。従来これらの分野では異なる学術体系に基づいてデータが蓄積されてきたが、近年、分類学におけるDNA情報の利用や、ヒトの文化的形質の起源や進化の研究、人新世における生物多様性の研究から、3つの分野には互いに接点が生じている。しかし、学際的なコミュニティ等を活用してもなお、技術的・概念的な溝を埋めるのは容易ではない。そこで、これら3つの分野の関わりについて、データ連携を中心に、代表的なリソース・研究事例・課題などを俯瞰し、バイオインフォマティクスの研究者を生物多様性情報や文化の情報の世界へと誘いたい。
著者
清水 厚志
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.11-19, 2022 (Released:2022-06-02)
参考文献数
20

2003年4月14日にヒトゲノム計画完了宣言がなされてから約20年後の2022年4月1日にThe Telomere-to-Telomere (T2T) consortium によりヒトゲノム「完全」解読論文が発表された[1]。本稿では技術的限界まで精確なヒトゲノム配列を追い求めたヒトゲノム計画の国際チームがなぜ当時ヒトゲノム配列を完全解読することができなかったか、そして近年開発された様々な技術を駆使してどのようにT2T consortiumがヒトゲノム完全解読を達成したかについて概説する。
著者
仲嶋 なつ
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.61-74, 2022 (Released:2022-11-01)
参考文献数
115

生体組織のゲノム情報を個々の細胞レベルで網羅的に計測し解析するシングルセル解析が可能となり、組織を構成する各細胞の挙動や多様な細胞種の性質について分析することができる。シングルセル解析においては、各細胞での遺伝子発現量(Single-cell RNA sequencing)と数理的手法とに基づいて、細胞種分類や軌道推定、遺伝子間相互作用推定などが行われている。本稿では、scRNA-seqデータに関する基礎知識や、シングルセル解析の動向と注目のトピックスに関して、各解析の概要と適用される数理的手法について概説する。
著者
山口 秀輝 齋藤 裕
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.52-67, 2023 (Released:2023-06-03)
参考文献数
156

ここ数年、深層学習に基づく生物配列の解析技術が台頭してきている。本稿は、その中でも特に急速に発達しているタンパク質の言語モデル(protein language models: pLMs)に関する総説である。アカデミアはもとより巨大IT企業も研究参画するこの技術は、基盤となるモデル開発がすでに一段落し、多様な生物学的・工学的タスクに対する応用結果が続々と報告されるフェーズに入っている。本稿では、最近のpLMsで中心的に用いられるTransformerの内部機構や学習方法、pLMsが獲得した生物学的情報の解析といった基本的な事項の解説から始め、配列解析、タンパク質機能予測・機能改変、立体構造予測、そして大規模言語モデルによる機能性タンパク質配列生成まで、実験的検証事例を交え幅広いテーマを紹介する。最後に、今後のpLMs研究が迎えうる展開について、萌芽的結果を踏まえつつ考察したい。
著者
西村 瑠佳 井ノ上 逸朗
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.68-80, 2023 (Released:2023-11-01)
参考文献数
112

ウイルスはヒトの体内をはじめとする地球上の様々な場所に存在し、バイロームを構成する。このバイロームを解析するのにはメタゲノムデータまたはメタトランスクリプトームデータを用い、バイオインフォマティクス技術を駆使したウイルスゲノムの網羅的探索が必要となる。ウイルスゲノムの探索には既知のウイルスゲノム配列を基にした相同性検索に加え、近年では様々な手法が用いられるようになった。さらに、こうして探索された多数のウイルスゲノムを基に、バイロームを構成するウイルス組成や宿主との関連性が調べられている。本稿ではウイルスの探索とバイローム解析に使われるバイオインフォマティクス解析手法を紹介し、バイローム研究結果の概要や問題点などを概説する。
著者
川崎 純菜 伊東 潤平
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.10-25, 2023 (Released:2023-06-03)
参考文献数
90

ウイルスゲノム疫学とは、ウイルスのゲノム配列情報を用いて感染症の流行動態や伝播経路を把握することで、感染症の制御を目指す分野である。COVID-19パンデミック下において、前例のない規模でゲノム疫学調査が実施されるようになった。このような大規模調査により、ウイルスゲノム配列をリアルタイムにモニタリングすることが可能となり、公衆衛生上リスクの高いウイルス変異株の早期捕捉や、ウイルスの適応度の上昇に寄与するゲノム変異の探索が可能となった。本稿ではまずCOVID-19パンデミック下におけるウイルスゲノム疫学の発展について概説し、さらに今後も発生し続けると予想されるウイルス感染症に備えるための課題と展望について議論する。本稿がウイルス学と生命情報科学との新たな融合研究のきっかけになれば幸いである。
著者
三嶋 博之
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.26-34, 2023 (Released:2023-06-03)
参考文献数
53

ゲノム情報にもとづく医療の分野は大きく広がっている。その中で最も患者・家族のもとに成果をとどけられた分野の一つが、難病・希少疾患のゲノム医療である。難病・希少疾患は、個別の疾病としてはまれなものであるが、試算によっては、その数は10,000以上に上る。総数としては、日本では指定難病症例だけでも100万症例を超える「ありふれた疾患」と言える。他のゲノム医療分野と同様に、この分野においてもバイオインフォマティクスは中心的役割を果たしている。エクソーム解析・全ゲノム解析といったゲノム網羅的な解析は強力ではあるが、現状における診断率は概ね40%台にとどまっている。本稿ではこの診断率を向上させるための方策、現状の難病・希少疾患解析ワークフローの概要とともに、ワークフロー改良のための新たな試み、そして今後の社会実装について概説する。
著者
千代丸 勝美 竹本 和広
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.26-36, 2021 (Released:2021-04-23)
参考文献数
60

生物ネットワーク解析はバイオインフォマティクスやシステム生物学における重要なアプローチのひとつである。特に、ネットワーク医学の観点からは、疾病遺伝子や薬剤標的分子の推定のような優先順位づけや疾病モジュールの同定のようなネットワーククラスタリングなどが求められる。本総説では、そのような多様なネットワーク解析に有効なネットワーク伝播について紹介する。ネットワーク伝播は半教師あり学習手法の一種であり、既知のラベルをネットワーク上で伝播させることによって重要なノードや部分ネットワークを見つける。ネットワーク伝播は理論背景が平易であり、拡張性が高い。そのため様々な問題に適用することができる。また、解析結果の解釈性が高く、異質なデータへの適用も容易であるという利点も持つ。ここでは、いくつかの代表的な手法を題材にしながら、ネットワーク伝播の基礎から応用までを解説する。
著者
寺師 玄記 木原 大亮
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.91-103, 2023 (Released:2023-11-01)
参考文献数
47

2015年以降、急速に発展してきたクライオ電子顕微鏡(cryo-Electron Microscopy, cryo-EM)は、タンパク質やDNA、RNAといった生体分子の三次元構造の解析において、欠かすことのできない技術となっている。一方、最近では人工知能や深層学習、画像認識技術などの計算科学の手法が多くの科学分野で適用され、著しい成果を挙げている。最近ではこれら2つの技術の発展と融合により、生体分子の研究の基礎である構造生物学は、急速に大きく進展している。本総説では、まずクライオEMの背景と基本的な技術を紹介し、さらに利用可能なデータベースやデータ構造についても紹介する。その後、クライオEMデータにおける深層学習の適用について、特に生体分子構造の解析に焦点を当て、筆者らの研究グループが開発したプログラムを中心に紹介する。
著者
露崎 弘毅
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.20-33, 2022 (Released:2022-06-02)
参考文献数
97

生命科学分野で取得されるデータ集合は、雑多(ヘテロ)な構造になり、ヘテロなデータ構造を扱える理論的な枠組みがもとめられている。本連載では、汎用的なヘテロバイオデータの解析手法である行列・テンソル分解を紹介していく。第3回では、行列を一般化したデータ表現であるテンソルと、行列分解の発展型であるテンソル分解手法について説明する。
著者
谷川 洋介
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.47-59, 2021 (Released:2021-04-23)
参考文献数
103

ヒトゲノム計画やその後の計測技術の進展にともない、多くの遺伝情報の取得・解析が容易になった。さらに、電子カルテやウェアラブルテクノロジー、大規模コホート研究の拡大によって、より多くの表現型のデータも得られるようになった。これら、遺伝型・表現型の両方におけるデータの拡大によって、より幅広い研究課題に取り組む絶好の機会が訪れている。人類遺伝統計学は、このようなデータを活用して、疾患などヒトの諸形質に影響を与える遺伝的変異をより深く理解するための強力なアプローチとなりうる。本稿では、ゲノムワイド相関解析やフェノムワイド相関解析、ポリジェニック・リスク・スコアなど、代表的な解析手法を取り上げ、複数の表現型の情報を考慮した遺伝情報解析など、近年の話題についても紹介する。
著者
柳澤 渓甫
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.76-86, 2021 (Released:2021-10-05)
参考文献数
98

近年の薬剤開発コストの増大に対し、計算機を用いて化合物群から薬剤候補化合物を選抜しようとするバーチャルスクリーニングは、化合物選抜のための化合物の合成やin vitro実験を必要としないことからコストの大幅削減につながることが期待されている。特に、タンパク質立体構造情報を用いたバーチャルスクリーニングでは、タンパク質と化合物との物理化学的な相互作用を評価し、化合物を選抜する。このため、既知の活性化合物の情報を必要とせず、新規構造を持つ薬剤候補化合物の選抜が可能である。本稿では、薬剤開発におけるタンパク質立体構造を用いたバーチャルスクリーニング手法について一連の流れを示し、近年の動向および研究事例について紹介する。
著者
福永 津嵩
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.3-11, 2020 (Released:2020-10-05)
参考文献数
66

大規模な生命情報データの表現方法として、サンプルを行、計測した各要素を列とする行列形式は典型的な表現方法である。またこの行列データから相関関係や依存関係にある列のペアを検出する解析は、一般的なデータ解析手法であるといえる。この相関関係や依存関係を定量化する手法として、相関係数や相互情報量といった指標がよく利用されるが、これらの指標は擬似相関や偽陽性を多く検出する危険があることが知られている。近年では、このような偽陽性を防ぐための手法として生成モデルに基づくアプローチが利用されており、特にデータのとる値が離散(カテゴリカル)である場合は逆イジング法と呼ばれる。本総説では、この逆イジング法のモデルとパラメータの学習方法、およびタンパク質構造解析を中心とした生命情報データ解析への応用例について紹介し、今後の展開について議論する。
著者
露崎 弘毅
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.15-29, 2021 (Released:2021-10-05)
参考文献数
78
被引用文献数
1

生命科学分野で取得されるデータ集合は、雑多(ヘテロ)な構造になり、ヘテロなデータ構造を扱える理論的な枠組みがもとめられている。本連載では、汎用的なヘテロバイオデータの解析手法である行列・テンソル分解を紹介していく。第1回では、1つの行列における代表的な行列分解PCA/SVD、NMF、ICAを紹介し、それらを「パターンの和としての行列分解」、「射影としての行列分解」という2つのアプローチで説明した。第2回でも引き続きこれらのアプローチを利用し、行列が複数ある時に適用できる、行列同時分解について説明する。
著者
田村 武幸
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.37-46, 2021 (Released:2021-04-23)
参考文献数
31

生体の細胞内では数千以上もの化学反応が、適切なタイミングで適切な量おこることにより、多様な機能が維持されている。代謝ネットワークは、細胞内の化学反応と化合物の関係をネットワークとして表現する。代謝ネットワークの種々の数理モデルの中でも、制約モデルを用いた流束均衡解析(Flux balance analysis: FBA)はゲノムスケールの代謝ネットワークに対しても高速なシミュレーションが可能であることが知られている。しかし所望の性質を持つ代謝ネットワークのFBAに基づく設計は、シンプルなFBAシミュレーションに比べて所用計算時間が激増するので、数理的な工夫をしなければ最新鋭の計算機システムを用いても実質的に計算不可能な場合が多い。本稿では、有用物質生産のための制約モデルに基づく代謝機能設計について、数理的側面を中心に、図例を用いながら基本的な問題設定やアルゴリズム、分野の動向等を解説する。
著者
王 青波
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.35-51, 2023 (Released:2023-06-03)
参考文献数
80

ヒトゲノムの個人差と様々な形質との相関を大規模に検定するゲノムワイド関連解析(Genome Wide Association Studies=GWAS)により、形質に関連するゲノム領域が次々と明らかにされている。一方、GWASにより同定された個々の関連領域には時に数千もの統計的有意な変異が含まれ、それら全てが形質に因果的に寄与するわけではないことが知られる。ゲノムに刻まれた生命の設計図をより厳密に理解するためには、そうした領域内で因果的効果を有する変異を“精緻(fine)”に絞り込み理解することが重要とされる。そこで本総説では、因果的変異を統計的に推定するfine-mapping手法に関して解説する。単一変異の寄与のみを考慮した単純なモデルから、より複雑かつ近年のバイオバンク規模のデータに適用可能なモデルまでを概観すると共に、疾患解析への応用や機能ゲノミクス、実験的検証との関連に関しても触れる中で、GWASのその先(post-GWAS)の時代の解析に関して展望する。
著者
露崎 弘毅
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.33-46, 2022 (Released:2022-11-01)
参考文献数
81

生命科学分野で取得されるデータ集合は、雑多(ヘテロ)な構造になり、ヘテロなデータ構造を扱える理論的な枠組みがもとめられている。本連載では、汎用的なヘテロバイオデータの解析手法である行列・テンソル分解を紹介していく。第4回では、これまで扱ってこなかった質的データ、距離、グラフといった特殊なデータに対して適用できる行列・テンソル分解を紹介する。
著者
松谷 太郎
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.75-87, 2022 (Released:2022-11-01)
参考文献数
51

がん細胞のゲノムには多数の突然変異が含まれており、それらは変異プロセスと呼ばれる何らかの原因によって引き起こされたものである。一部の変異プロセスは、変異の種類(一塩基置換や構造バリアント等)や周辺の塩基情報に依存した特定の変異を引き起こしやすいことが知られており、そのような変異のパターンを変異シグネチャーと呼ぶ。個人の腫瘍に含まれる多数の突然変異は複数のシグネチャーが作用した結果と解釈することが可能であり、そのようなシグネチャー解析は変異をその原因と結びつけるという意味で発がん過程の分子的なメカニズム解明の一助となる他、個別化医療の現場におけるバイオマーカーとしての利用が期待されている。本総説では、変異シグネチャーの推定手法としてオミクスデータに対する教師なし学習を中心に概説した後に、がんゲノム研究における応用例を紹介し、今後の展望について議論する。