著者
林田 光平
出版者
日本マーケティング・サイエンス学会
雑誌
マーケティング・サイエンス (ISSN:21874220)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.63, 2019 (Released:2020-05-11)

現代の食品小売業界においては,消費者の店舗来店と購買意欲を促進する一つの方策とし て,Loss Leading と呼ばれる,一部カテゴリーに対する極端な値引きが恒常化している。し かしながら,実際にLoss Leading により店舗全体の売上・収益が向上しているかどうかにつ いては事前に明確ではなく,実証的な課題である。本研究では,Loss Leader とされやすい日 配品(牛乳・パン・冷凍食品)を事前に抽出し,これらのカテゴリーに対する値引き(Loss Leading)が店舗売上指標に与えている影響を分析する。分析に際しては,Loss Leading の影 響にチェーンレベルで異質性が存在するかどうかを検討するために,異なる価格戦略(価格 を頻繁に高低させるHiLo と常時低価格を訴求するEDLP)をとる 2 チェーンのIDPOS データ を使用する。分析の結果,HiLo チェーンでは,牛乳カテゴリーの値引きにより店舗総売上・ 来店客数ともに増加しているのに対して,EDLP タイプの店舗では,牛乳カテゴリーの値引 きは店舗総売上・来店客数ともに減少させる効果が見られた。さらに,パンカテゴリーにお いては明瞭な影響がみられなかった一方で,冷凍食品カテゴリーではHiLo とEDLP で来店 客数と店舗総売上ともに増加させることが明らかとなった。このように,Loss Leading の効 果については事前には明確ではなく,チェーンタイプとカテゴリーによる異質性を考慮して 価格設定を行うことが重要であることが示された。