著者
天間 雄祐 小尾(永田) 紀翔 林(高木) 朗子
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.94-99, 2019 (Released:2019-12-28)
参考文献数
23

昨今の脳神経科学の発展は著しく,脳の作動原理を次々に明らかにしてきたものの,統合失調症の病態生理は未解明な部分が多く,したがって病態生理に立脚した根治薬は存在しない。しかしながら,人類遺伝学をはじめとするさまざまなヒト由来サンプルや所見より,グルタミン酸作動性シナプスの異常が統合失調症の病態生理として示唆されている。そこで本稿では,精神疾患関連遺伝子のモデル動物を切り口に,モデル動物だからこそ可能となる操作的・侵襲的実験手法を用いた実験で,どのようなシナプスパソロジーが明らかにされているかについて述べる。最後に,われわれが開発したシナプスを時空間的に直接光操作することができるシナプスプローブを紹介する。このように最先端の技術を駆使した仮説検証を繰り返すことにより,精神疾患の解明を目指すわれわれの戦略について述べる。
著者
林(高木) 朗子
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.127-134, 2011 (Released:2017-02-16)
参考文献数
45

めざましい遺伝学の進歩により,多くの統合失調症感受性遺伝子が同定されているが,いまだに本症の病態機構は不明である。多数の疾患関連遺伝子による多因子疾患であるという本症の特色が,生物学の構築を困難にしていると考えられる一方で,こうした関連因子が何ら関連のない別個の作用を有するのでなく,幾つかの共通の分子機構(疾患関連シグナル)のうえで相互作用することが示されている。統合失調症関連遺伝子の多くがグルタミン酸伝達に関与することより,グルタミン酸作動性シナプスは,本症における重要な関連シグナル伝達経路の1つと考えられる。本稿では,統合失調症関連遺伝子として有力な遺伝子の一つであるDISC1(Disrupted-In-Schizophrenia-1)のグルタミン酸シナプスにおける関与を紹介しながら,発症メカニズムについての一つのモデルを紹介する。すなわち思春期以前は比較的健常であった人々が,なぜ思春期以降に発症するのか,その時に生じている細胞生物学的にメカニズムは何であるのかという疑問に焦点をあて,本症の病態生理について考察する。