著者
村上 博哉 神谷 修平 柘植 政宏 葛谷 真美 森田 健太郎 酒井 忠雄 手嶋 紀雄
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.387-392, 2016

鉄鋼に含まれるリンは,冷間脆性を起こす原因物質となることから低含有量であることが望まれている.その一方で,切削性や耐候性の向上を目的として添加されることもある.そのため,リンの含有量は厳密な管理が必要不可欠である.しかし熟練者の一斉退職に伴い,化学分析の技術継承が危ぶまれており,視覚情報を取り入れた効率的な継承支援策の確立が喫緊の課題となっている.標準的な定量法として「JIS G 1214鉄及び鋼─りん定量方法」があるが,初心者がこの定量操作を行うと,過塩素酸白煙(蒸気)によるリンの酸化処理の開始の見きわめが早まる傾向が見られた.これはリンのオルトリン酸イオンへの酸化が不十分という好ましくない状況を招く.そこで本研究では技能伝承の一助として,適切な状態から過塩素酸白煙処理が行われるように,この操作を可視化した.また,鉄鋼試料分解後のモリブドリン酸青吸光光度法をスキルフリーなフローインジェクション分析(FIA)法によって自動化した.本法により2種類の認証標準物質中のリン濃度を定量した結果,両物質の定量値共に保証値と良く一致した.