著者
柳 東汶
出版者
待遇コミュニケーション学会
雑誌
待遇コミュニケーション研究 (ISSN:13488481)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.34-50, 2023-04-01 (Released:2023-04-01)
参考文献数
18

待遇コミュニケーションは、コミュニケーションを捉える理論の一つとして、数多くの研究・教育の成果を残してきた。しかし、その成果は、学会誌『待遇コミュニケーション研究』を確認する限り、言語に集中しており、「コミュニケーションは、言語だけで成り立つものではない」という我々の直感と通じないものになっている。言語以外のコミュニケーション行為も視野に入れた、待遇コミュニケーション研究・教育を考えることが、これからの課題になってくるといえる。そこで、本稿では、マルチモーダルの観点を取り入れた待遇コミュニケーションと、待遇コミュニケーションとしてのマルチモーダル・コミュニケーション研究のあり方について、考察を行った。研究課題1「マルチモーダルの観点を待遇コミュニケーションの理論に取り入れた場合、どのように捉え直すことができるか」に関しては、形式(かたち)に関する概念である「媒材」「言材」「文話」について、マルチモーダルの観点から考察した。媒材に関しては、音声・文字以外にも表情や視線などの媒材があり、複数の媒材化が互いに関係性を持って同時に行われることを述べた。言材に関しては、コミュニケーション材という概念を提示し、それによって「〈コミュニケーション=行為〉観」というコミュニケーション観が考えられると論じた。文話に関しては、マルチモーダルの観点を取り入れると、手話やモールス符号など、文章・談話に含まれないものを視野に入ると述べた。研究課題2「マルチモーダル・コミュニケーションの研究を待遇コミュニケーションとして捉えた場合、どのようなあり方が考えられるか」については、第4章で、二つの研究を採り上げて考察を行った。考察の内容としては、(1)音声・文字以外の媒材によるコミュニケーション行為と、それに関する5つの要素の連動についての研究、(2)ポライトネス理論や敬意コミュニケーションの観点から捉えた研究、(3)教育・学習場面を、コミュニケーションの場面として捉えた上での待遇コミュニケーション研究、が考えられると論じた。