著者
柳井 康子
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.321-333, 2021 (Released:2022-01-27)
参考文献数
31

本研究では幼少期に高機能発達障害と診断された子どもを持つ母親19名に誕生から就労までの育児を振り返る半構造化面接を行い,母親にとっての「普通」という言葉の意味の変容過程について調査した。分析の結果,①「普通」ではないかもしれない不安,②「普通」を巡る傷つき,③「普通」へのこだわり,④「普通」の問い直し,⑤わが子なりの「普通」で十分,というプロセスが明らかになり,母親にとって「普通」という言葉は,「人並み」という意味から「もっとできて当然」,そして「他者の上でも下でもない」という意味へと変容してはいるが,青年期に至るまでわが子が「普通」であるか否かで葛藤し続けていることが示された。また母親らは周囲の人々の「普通」を強要しない態度を契機に「普通」へのこだわりから解放されていたことから,「普通」か否かを決めるのは母親自身であり周囲が押し付けるものではないことを支援者側が再認識する重要性が示唆された。