著者
白石 純子 中川 瑛三 加藤 希歩 新井 紀子 渡邉 静代 岩見 美香 家森 百合子
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.58-72, 2021 (Released:2021-10-08)
参考文献数
28

今回の報告の目的は,発達性協調運動症のある子どもの書字困難の特徴を検討すること,および書字困難に対する感覚統合療法の効果を検討することである。発達性協調運動症のある小学2年生,計13例を対象に,読み書き,音韻処理,視知覚認知機能,眼球運動,感覚処理・協調運動に関するアセスメントを実施し,主訴やアセスメント結果から対象児それぞれの課題に応じた感覚統合療法を週に2回,計10回実施した。結果,13例の対象児の書字困難の特徴は「乱雑」「視写の困難さ」「書字負担」「読みの困難さを併せもつ書きの困難さ」「漢字書字の困難さ」「拒否」の6つのグループに分類された。感覚統合療法による介入を通して,13例中9例において書字困難に関する主訴の改善が認められ,発達性協調運動症に関連する書字困難が改善する傾向が示唆された。
著者
青木 真純 佐々木 銀河 真名瀬 陽平 五味 洋一 中島 範子 岡崎 慎治 竹田 一則
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.133-143, 2019 (Released:2020-12-03)
参考文献数
21

ノートを取ることの困難さを主訴とした大学生1名に対し,ノートを取るための方略生成と精緻化のプロセスを支援することで方略変容が生じるか,またそれがノートの内容にどのような影響を及ぼすかを検討した。支援開始前に心理教育的アセスメントを行ったところ,言語的な知識や,聴覚的短期記憶は保たれているものの,注意の向け方の独特さや,全体の見えにくさ,ワーキングメモリの弱さ,視覚的短期記憶の弱さ,注意の切り替えの難しさといった認知特性が想定され,これらがノートを取ることの困難さに関連した背景要因として考えられた。これらをふまえ,支援の中では,対象者に友人のノートと自分のノートを比較させ,方略を生成することを促し,言語化させた。その結果,対象者は多くの情報を記載するための方略や情報の取捨選択を行うための方略を生成し実行した。それによってノートに書かれた情報の不足を補うことが一定程度可能となった。
著者
海津 亜希子 玉木 宗久 榎本 容子 伊藤 由美 廣島 慎一 井上 秀和
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.58-74, 2022 (Released:2022-02-28)
参考文献数
11

発達障害を対象とした通級での自立活動において教科の内容を取り扱いながらの指導の実態を調査した。通級担当者に任意の1名について回答を求め小学校952名,中学校613名,高等学校173名の児童生徒の回答を得た。教科の内容を取り扱いながらの自立活動の指導の実施について「有り」と回答した割合は,小学校70.3%,中学校76.3%,高等学校25.4%であった。指導の内容は小・中学校のLD,ADHD,ASDいずれの障害種でも「基礎的な学習スキル」,次に「授業への参加の不安を取り除き参加意欲を促すための振り返りや先取り」が高かった。一方「特定の代替手段の使い方」「定期試験,テスト等を受ける際に必要なスキル」は40.0%に満たなかった。自立活動の区分において,50.0%を超えたのはいずれの障害種においても「心理的な安定」であった。また自由記述で求めた課題では「通常の学級との連携」に関するものが24.5%みられた。
著者
大西 正二 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.23-33, 2023-02-25 (Released:2023-02-25)
参考文献数
27

漢字の書字成績と視写の各工程に必要な能力,Reyの複雑図形(模写・3分後再生),漢字の読み成績の相関分析を行った。結果,漢字の書字成績と相関したのはReyの複雑図形(遅延再生)と漢字の読み成績だった。またロジスティック回帰分析の結果,漢字書字の障害の重症度には,Reyの複雑図形(遅延再生)のみが影響していた。そして運動覚に関する検査以外の視写の各工程に必要な能力は,Reyの複雑図形(遅延再生・3分後再生・模写)とそれぞれ相関しており,視写の工程に必要な能力は,図形を模写する能力,それを短期記憶する能力,遅延再生する能力に関係していた。
著者
大対 香奈子 田中 善大 庭山 和貴 松山 康成
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.310-322, 2022 (Released:2022-11-26)
参考文献数
27

学校での児童の問題行動に対し,叱責などの嫌悪的な対応ではなく,望ましい行動を積極的に教え,承認することで増やし,問題行動を予防する実践であるポジティブ行動支援(positive behavior support: PBS)が最近注目されている。本研究ではPBSを学校規模で実践する学校規模ポジティブ行動支援(school-wide positive behavior support: SWPBS)を公立小学校1校で実施し,児童と教師への効果を検討した。結果,SWPBS実施後に児童の授業参加行動の増加が見られ,また主観的な友人関係に関わる適応感が改善したことが示された。教師への効果としては,SWPBS実施後に教師の称賛の回数は変化しなかったものの,叱責については減少が見られた。以上より,本研究のSWPBSの実践は児童および教師に一定の効果が認められた。今後は対象校を増やした検討が望まれる。
著者
室橋 春光
出版者
日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.251-260, 2009-10-25

ワーキングメモリーは、Baddeleyらにより1970年代に提案され、現在まで展開され続けている、認知心理学領域における主要概念である。発達障害のメカニズムを考える上で、ワーキングメモリーという概念は重要な役割を有しているといえる。学習障害、ADHD,自閉症に関してそれぞれ多数の研究が進められ、ワーキングメモリーはいずれの障害においても関与することが認められているものの、各障害において主要原因とみなしうるかどうかについては議論が錯綜している。しかし少なくとも学習障害領域では、ワーキングメモリーは、その障害メカニズムに密接に関連しており重要な要因であるといえる。本論では、特に読み活動を中心にワーキングメモリーの役割を検討する中で、学習障害研究と認知科学の関係を考えてみたい。
著者
小島 道生
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.491-499, 2020 (Released:2020-12-03)
参考文献数
24

本研究では,自閉スペクトラム症者を対象としたアンケート調査により,自尊感情と主観的幸福感の特徴について検討した。自閉スペクトラム症者27名と同年代の対照群60名との比較を行ったが,自尊感情と主観的幸福感について違いはなかった。ただし,自閉スペクトラム症のある学生の自尊感情や主観的幸福感は,社会人に比べて低い可能性が示唆された。したがって,高等教育機関に所属する自閉スペクトラム症のある学生への支援においては自尊感情や主観的幸福感へも配慮を行いながら,支援の在り方を見つめ直すことが重要であると考えられた。さらに,自閉スペクトラム症者と同年代の対照群に共通して自尊感情が高いと主観的幸福感も高くなることが示唆された。
著者
大西 正二 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.363-376, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
25

漢字書字の習得が困難な学習障害児4症例に対し,従来の学習方法である視写の工程に基づき,それぞれの工程に必要な能力の検査を実施した。症例ごとに問題のある工程はさまざまであったが,4症例に共通していた問題は,漢字の形態を構成要素に分解する工程であった。今回,視写の工程におけるそれぞれの問題点を補うため,認知処理様式,体性感覚の入力方法などに配慮した学習法(体性感覚法)を設定し,その効果を単一事例研究法で検証した。その結果,体性感覚法は学習障害児の漢字書字の学習に有効であった。また,症例の認知処理様式の傾向と漢字の画の提示方法が継次的か同時的かであることが,漢字書字の正答率に影響していることが示唆された。また,視覚性の記憶が低下している症例では,文字運動覚心像がより形成されやすい学習法において,空書を使用して漢字を想起する場合があることが確認された。
著者
藤岡 徹
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.474-483, 2017 (Released:2020-12-25)
参考文献数
49

これまでに,自閉スペクトラム症(ASD)の特性を説明しようとするさまざまな理論が提唱されてきた。代表的なものとしては,ASD傾向を規則性に当てはめてものごとを理解する傾向とする共感-システム化理論,実行機能に困難があるためにASD特性が生じるとする実行機能理論,情報を意味のある全体にまとめ上げようとする動因が低い結果として細部に過度に着目するとした弱い中枢性統合(全体的統合)理論,社会的行動をつかさどる脳領域と絡めてASD特性を説明しようとする社会脳理論の4つがある。これらの理論においては,ASD特性は障害ではなく長所と短所を含む認知スタイルとして捉えられるようになってきている。これら理論に基づいてASD特性が深く理解され,彼らの強みが生かされる支援や配慮が提供されることが期待される。
著者
青木 真純 佐々木 銀河 真名瀬 陽平 五味 洋一 中島 範子 岡崎 慎治 竹田 一則
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.133-143, 2020

ノートを取ることの困難さを主訴とした大学生1名に対し,ノートを取るための方略生成と精緻化のプロセスを支援することで方略変容が生じるか,またそれがノートの内容にどのような影響を及ぼすかを検討した。支援開始前に心理教育的アセスメントを行ったところ,言語的な知識や,聴覚的短期記憶は保たれているものの,注意の向け方の独特さや,全体の見えにくさ,ワーキングメモリの弱さ,視覚的短期記憶の弱さ,注意の切り替えの難しさといった認知特性が想定され,これらがノートを取ることの困難さに関連した背景要因として考えられた。これらをふまえ,支援の中では,対象者に友人のノートと自分のノートを比較させ,方略を生成することを促し,言語化させた。その結果,対象者は多くの情報を記載するための方略や情報の取捨選択を行うための方略を生成し実行した。それによってノートに書かれた情報の不足を補うことが一定程度可能となった。
著者
宮木 秀雄 河野 宏輝
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.300-311, 2023 (Released:2023-11-25)
参考文献数
33

本研究の目的は,小学校1年生の通常の学級を対象に,ポジティブ行動マトリクスの提示,学級担任によるBehavior-Specific Praise(BSP),仲間の望ましい行動を口頭で報告し合うPositive Peer Reporting(PPR)を組み合わせた手続きによる学級規模ポジティブ行動支援(CWPBS)を実施し,その効果を検討することであった。公立小学校1年生(29名)を対象に介入を実施した結果,授業中に発表者の方に顔を向けた児童の割合および私語をせずに給食準備ができた割合が増加し,昼休み開始時に廊下を走った児童の割合は減少した。また,学級担任によるBSPの割合は,介入開始後に増加した。加えて,児童と学級担任への質問紙調査の結果より介入に関する一定の社会的妥当性も示された。
著者
安藤 瑞穂 武田 俊信 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.290-300, 2018 (Released:2020-12-04)
参考文献数
41

本研究は成人期のADHD(以下,成人ADHD)にコーチングを適用した10事例の報告である。第1筆者によりコーチングが3から4カ月実施され,身辺管理を中心とした日常生活上の困難さ,気分や感情の一部に改善を示す結果が得られた。これらの結果は我が国の成人ADHDに対するコーチングの適用を支持する予備的な成果を示唆するものを考えられた。本研究では,事例のエピソードを交え,コーチングの実施による効果を考察した。
著者
佐藤 七瀬 新井 里依 角田 茉里恵 安藤 瑞穂 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.126-137, 2021 (Released:2021-12-23)
参考文献数
50

アーレンシンドロームとは視知覚障害のひとつで,主に文字の歪み,光に対する過敏性,頭痛等と身体症状が挙げられる。本研究では,アーレンシンドローム者の視機能の特性を検討し,年齢による視機能への影響を検討することを目的とした。アーレンシンドローム者66名に対し,本研究では簡易検査として色覚,近見視力,立体視の3つの視機能評価を行った。その結果,アーレンシンドローム者の47.0%が視機能のいずれかに問題が見られ,対象の40.0%が立体視,27.1%が近見視力,7.6%が色覚に問題を認めた。このことから,アーレンシンドローム者はピント調節や遠近感をつかむことができない人も多いことが示唆された。また,学齢期と成人で比較した結果,色覚に有意差がみられた。アーレンシンドローム者に視機能評価を実施することの有用性が示唆された。今後,有色レンズ装用時で視機能が改善される効果検証を行う必要がある。
著者
松本 敏治 橋本 洋輔 野内 友規
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.81-91, 2024-02-25 (Released:2024-02-25)
参考文献数
40

近年,ASDの方言不使用という印象が全国で見られるとする報告がなされており,解釈の一つとしてメディアからの言語習得を指摘する意見があるが,否定的見解も存在する。この解釈が妥当であるなら,自然言語とメディア言語に乖離がある国や地域では類似の現象が生じる可能性があり,アイスランド・北アフリカからはこの解釈を支持するような報告がある。本論文では,4名のアイスランドのASD青年・成人に関して,本人および母親に行った聞き取りの結果を報告する。4名とも初期はアイスランド語を話していたものの現在は英語が主要言語となっている。本人・親ともに,興味をもった英語メディア・コンテンツの繰り返し視聴によって英語習得が行われたと認識していた。これらの聞き取りとアイスランドにおけるアイスランド語と英語の使用状況の情報に基づいて,ASDのメディアからの言語習得の可能性とその成立条件を検討した。
著者
黒瀬 圭一 野田 航
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.46-57, 2022 (Released:2022-02-28)
参考文献数
15

本研究の目的は,小学校5年生学級において,学級規模ポジティブ行動支援を実施し,その効果を検証することであった。学級規模ポジティブ行動支援では,学級目標をもとに学級担任と児童が共同でポジティブ行動マトリクスを作成し,目標行動を決定した。その後,特に集中的に改善に取り組む目標行動として,学級担任が話し出したときにきりかえて話を聞く行動(きりかえ行動)と児童同士で教え合う行動を選定した。その後,これらの目標行動に対して行動支援計画表を作成し,介入を実施した。介入実施中にも,児童と取り組みの経過を確認しながら介入方法を修正していった。介入効果を検証するために,きりかえ行動の回数および教え合い行動をしたことを報告するカードの枚数を測定した。また,日本版SLAQ(大対ら,2013)も実施した。介入の結果,目標行動が増加し,学校肯定感も有意に向上したことが明らかとなった。
著者
岩田 みちる 橋本 竜作 柳生 一自 室橋 春光
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.145-153, 2020 (Released:2020-12-08)
参考文献数
25

これまで漢字の書字障害に対して,視覚認知障害,視覚認知障害と想起障害,漢字をまとまりとして学習する方略の欠如,視覚情報の保持障害など,さまざまな仮説が提案されてきた。これらの障害仮説に合致しない漢字の書字障害を呈した児童の障害機序を検討した。漢字の親密度を統制し,漢字の「要素」が他の漢字に含まれる共有性を操作した書字課題を実施した。その結果,木偏など「要素」を共有する漢字が多いほど修正を繰り返すことが確認された。このことから,本児の書字障害の背景には,漢字の「要素」の共有性によって形態情報の競合が生じることで保持と処理が困難になる正書法ワーキングメモリ―の弱さが疑われた。漢字の形態情報を共有する他の漢字の多さによって生じる干渉が,正書法ワーキングメモリ―の処理負荷に影響した結果,漢字に特異的な書字障害が生じた可能性がある。
著者
鈴木 徹 武田 篤
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.211-222, 2022 (Released:2022-08-25)
参考文献数
19

これまで自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: 以下,ASDと記す)傾向を示す場面緘黙児への介入については十分に研究が行われてこなかった。本研究では,ASD傾向を示す場面緘黙生徒を対象に,ASD傾向を踏まえた上で場面緘黙の解消に向けた取り組みを行った。対象生徒には,見通しの持ちにくさやソーシャルスキルの不足,他者とのポジティブな交流経験の不足といったASD傾向が認められた。そのため,取り組みでは,ASD傾向に配慮したセッションを行うとともに,エクスポージャーを並行して実施した。セッションでは,スムースに話し出すようになる,表情が柔らかくなりよく笑うようになった。エクスポージャーはおおむね良好であり,設定した課題を達成できた。これらの取り組みの成果をもとに,ASD傾向を示す場面緘黙児へのアプローチの在り方について論じた。
著者
室橋 春光
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.134, 2014-05-25
著者
高畑 英樹
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.354-364, 2018 (Released:2020-12-03)
参考文献数
35

誤答率の高い九九は,通常の学級及び発達障害児を対象とした結果とも,4(し)と7(しち),7(しち)と8(はち)の音韻が似た数字の入っている九九が多かった。また,2月の段階では,7×6と6×7,7×4と4×7のように,交換法則の成り立つ九九をセットで間違えている可能性が高かった。通常の学級と比べて,発達障害児の九九学習における誤答の特徴をあげるとすれば,被乗数が7,8,9と九九学習後半で学習する数が多かった。特異数については,通常の学級では,1と5の正答数が高くなっていることから,かけ算九九において1と5は正答率が高く機能する特異数であることが示唆された。発達障害児のかけ算九九において,正答率が高く働く数字として機能する特異数は,1のみであった。通常の学級で正答率の高い特異数として示唆された5の数字が,被乗数または乗数に含まれる九九では,誤答率の高いものが2つあった。
著者
武田 瑞穂 佐藤 睦 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.288-299, 2023 (Released:2023-11-25)
参考文献数
25

近年,運動が注意欠如・多動症(ADHD)のある人の認知パフォーマンスを高めると報告されているが,認知面の変化が授業時の適応行動に及ぼす影響については不明な点が多い。本研究では,運動プログラムを実施する期間中の授業態度の変化を検討した。運動プログラムには,ADHDのある人の主体的な取り組みを促進するコーチングを適用した。主な結果の分析から,運動プログラムによる能動的な授業参加の増加と,授業内容に関係のない行動の減少が示唆された。また,解釈には注意が必要であるが,多動・衝動性や心理社会的適応状態の一部に改善の可能性がみられた。今後の課題として,運動プログラムの効果を明らかにするために,認知や運動を測定する指標の必要性が考えられた。