著者
柳原 衞 小橋 基
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.31-39, 2019 (Released:2019-11-09)
参考文献数
22

咽頭・喉頭を支配する上喉頭神経求心性ニューロンの興奮により胃近位部弛緩が生じる。この弛緩に、非コリン性・非アドレナリン性(non-adrenergic and non-cholinergic: NANC)伝達が関与する可能性を組織学的手法を用いて検討した。あらかじめ腹腔内にfluorogold(FG)を投与し、上喉頭神経を電気刺激したラット延髄の切片を用いて、抗c-fosおよび抗FG抗体の酵素抗体法による二重免疫染色を行った。c-fos免疫陽性細胞は刺激と同側及び反対側の背側迷走神経複合核群(孤束核、最後野、迷走神経背側運動核)及び腹外側部に認められた。迷走神経複合核群のc-fos陽性細胞は、閂の吻側から尾側の広範囲で観察された。迷走神経節前線維の細胞体を含む迷走神経背側運動核では、FGにより逆行性標識された細胞のいくつかにc-fos免疫陽性細胞が観察された。あらかじめ胃壁にFGを注入し上喉頭神経を電気刺激したラットの延髄切片を用い、抗c-fosおよび抗FG抗体の酵素抗体法による二重免疫染色を行った。この標本でも、迷走神経背側運動核内にc-fos免疫陽性細胞とFGによる二重標識細胞が観察された。さらに、胃壁にFGを注入したラットの上喉頭神経を電気刺激し、延髄切片の蛍光免疫染色をおこなった。FGにより逆行性に染色された細胞に、抗c-fos抗体および抗一酸化窒素合成酵素(NOS)抗体を用いて蛍光免疫染色をおこなった結果、FGで逆行性に標識され、かつNOS免疫陽性を示すとともにc-fos免疫陽性を示す細胞が迷走神経背側運動核の尾側部に観察された。これらの結果から、胃に投射する迷走神経背側運動核ニューロンの一部は上喉頭神経刺激で興奮し、胃弛緩をもたらしていることが示唆された。迷走神経背側核には、一酸化窒素(NO)を介してNANC壁内ニューロンとシナプス結合する節前ニューロンの細胞体が存在することが知られているので、NANC伝達が上喉頭神経由来の胃弛緩に関与する可能性も示された。