著者
安部 恭子 島田 達生
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.51-58, 2009-03-20 (Released:2010-09-09)
参考文献数
36
被引用文献数
3

個人の母乳の乳質を知るために、母乳の肉眼と顕微鏡での観察を試みた。用手搾乳された母乳141検体において、初乳は一般に黄色を呈し、移行乳から成熟乳にいたるにつれて白色となった。スライドグラス上の20μlのオイルレッドまたは1%オスミウム中に20μl母乳を滴下し、肉眼と光学顕微鏡で観察した。各々の小型の脂肪滴は鮮明に同定できるが、20μl中に含まれる脂肪滴の量にかなり個人差があった。遠心分離した上層の黄色の部位を走査・透過電子顕微鏡下で観察すると、脂肪滴は球状で、初乳1.5~3.0μm、移行乳2.0~6.0μm、成熟乳2.0~6.0μmであった。脂肪滴は母乳中においても細胞膜に包まれ、脂肪滴同士の融合はみられなかった。
著者
川真田 聖一 黒瀬 智之 小澤 淳也 榊間 春利
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.62-74, 2016 (Released:2016-04-08)
参考文献数
6

骨格筋の起始と停止から作用を理解する考え方を、初修者向けに説明した。筋は基本的に、力を出すとき収縮して短くなり、筋の停止が起始に向かって引かれる。その際、筋の作用は、起始と停止の間にある関節で起こるので、関節の可動性によって制約を受ける。筋の作用はしばしば3次元で起こるため、屈曲/伸展、内転/外転、内旋/外旋の3種類の運動に分けて、テコの原理にもとづいて理解すると分かりやすい。簡単に言えば、筋の作用は、3次元的に起始と停止間の距離が最も短くなるような運動である。したがって、起始と停止の位置関係を知り、その間にある関節の可動性が分かれば、筋の作用を合理的に推測できる。具体的に説明するため、棘上筋、棘下筋、広背筋、肩甲挙筋、前鋸筋と中・小殿筋を取り上げ、起始と停止から筋の作用を理解する考え方を説明した。また、全身の各部位には機能が似た筋が集まって存在する傾向があり、これらの筋を筋群と呼ぶ。同じ筋群に属する筋は、起始あるいは停止が共通な場合や、支配神経が同じであることも多い(例:前腕前面の筋、下腿後面の筋、ハムストリングス、内転筋群)。そのため、筋の起始、停止、作用と支配神経を学習する場合、全身には多くの筋があるので、はじめは全身の筋を筋群に分けて大まかに把握し、各筋群に共通する特徴を理解した後に、個別の筋を理解するのが良いと思われる。
著者
菅原 真由美 杉田 聡 島田 達生
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.43-49, 2005-03-08 (Released:2010-09-09)
参考文献数
16
被引用文献数
2

近年、生活様式の変化により和式トイレの使用率が減少している。本研究では、若年者113人・中高年者79人の女性を玄対象に、しゃがみ姿勢の成就率を明らかにする。さらに、しゃがむ際に必要となる下肢関節可動域との関連を明らかにするため、トイレの様式に関する質問紙調査と角度計による下肢関節可動域の計測を行った。床に踵を付けた安定した姿勢でしゃがむことができない者が約20%いることに加え、しゃがみ姿勢による足関節背屈の可動域には左右差が認められた。また、しゃがみ姿勢の成就率と足関節背屈による可動域との問には有意差があり、安定してしゃがむことができる者は、大きな可動域を持っている傾向にあった。
著者
小西 有美子 佐藤 寿晃 佐藤 孝史 長沼 誠 鈴木 克彦 成田 亜矢 藤井 浩美 橋爪 和足 内藤 輝
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.65-69, 2011 (Released:2015-11-18)
参考文献数
15

健常男性8名(20-45歳)の右上肢を対象に、肘屈曲角度による前腕回外力の変化について調べた。被験者は、肩外転90°、屈伸0°、内外旋0°、前腕中間位にして上腕と前腕を台の上に載せ、肘を伸展位(0°)から10°毎に130°まで屈曲した状態で、等尺性収縮による最大の回外を行い、その回外力を計測した。回外力は、伸展位で3.9±1.2(平均±標準偏差)kg、10°位で4.5±1.2 kg、20°位で5.1±1.1 kg、30°位で6.2±1.1 kg、40°位で6.8±0.9 kg、50°位で7.7±1.1 kg、60°位で8.5±1.2 kg、70°位で8.3±1.4 kg、80°位で7.7±1.3 kg、90°位で7.3±0.9 kg、100°位で6.5±1.6 kg、110°位で6.0±1.7 kg、120°位で5.4±1.5 kg、130°位で4.8±1.2 kgとなった。回外力は伸展位から60°位までの屈曲で増加、70位°以上の屈曲では減少すること、肘の屈曲角度により回外力は2倍以上変化することが示された。この要因として、肘屈曲に伴う上腕二頭筋の筋線維の長さの変化や停止腱の角度の変化が考えられた。
著者
鹿子木 和寛 飯盛 光葉 末田 加奈 古賀 稔健 塚本 裕二 山邉 素子 島田 達生
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.53-60, 2006-03-01 (Released:2010-09-09)
参考文献数
36
被引用文献数
3

近年、ハイヒールやミュールの着用により外反母趾や扁平足などの足のトラブルが増えている。本研究はヒト足型の形態的特徴を明らかにするために、82名の女子看護大学生を対象に足型測定器「Foot Grapher」を用い、足型を調査した。その結果、足型からみた足の異常は、中等度5名 (6.1%) 、第5指の浮き指33名 (40.2%) 、鉤足6名 (7.3%) 、扁平足7名 (8.5%) に認められた。上記の4項目のいずれかに該当した女子看護大学生は44名 (53.7%) であり、約半数以上の足に何らかの問題がみられた。
著者
山田 貴代 信崎 良子 藤原 雅弘 澤田 昌宏 松田 正司 小林 直人
出版者
Co-medical Research Society of Structuer and Function
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.99-109, 2008

愛媛十全医療学院理学療法学科・作業療法学科では、愛媛大学医学部の協力により2004年度から学生が"自らメスを持って"行う人体解剖実習を行っている。それに伴い、人体解剖実習を行うにあたって必要とされる医の倫理について、少人数グループ学習形式のセミナー授業を導入した。本報では、人体解剖実習とセミナー授業による学生の意識の変化を把握するためアンケートを行い、その結果について考察した。対象は2005年~2006年度の理学療法学科1年生及び2007年度の理学・作業療法学科1年生である。2007年度の結果は、「人体解剖実習で献体 (ご遺体) を見るのは怖い」と「人体解剖実習はできればやりたくない」と「自分がPT・OTになった時に、人体解剖実習は役に立つと思う」という項目には関連性があり、人体解剖実習の意義は理解できていても、実際に経験してみると精神的な負担が大きいと感じる学生がいることが示された。2005年度から2007年度にかけて、「自分の身近な人が、自分の死を他人のために活かすことは賛成できる」や「自分が死亡したときに、献体として自分の身体を提供しても良いと思う」の項目に肯定的な回答の減少が認められた。これにより、「死」に対する考え方や捉え方の個人差の広がりが示唆され、実習を担当する教員が学生個人の倫理観を把握することや、人体解剖実習前の医の倫理セミナーの必要性が考えられた。
著者
間宮 未来 亀田 翠 時田 幸之輔 小島 龍平 相澤 幸夫 影山 幾男 熊木 克治
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.4-10, 2022 (Released:2022-10-04)
参考文献数
16

一般に筋皮神経は腕神経叢の腹側神経、橈骨神経は背側神経とされている。今回筋皮神経の皮枝と尺骨神経と手背での皮枝の交通が観察され、手背の母指から第2指まで分布していた。また、橈骨神経の皮枝としては、上腕への皮枝は貧弱であり、前腕・手背への皮枝(橈骨神経浅枝)は欠損して筋皮神経の皮枝(外側前腕皮神経)によって補われている特殊な所見に遭遇した。手背の皮神経分布について詳細に観察した結果、筋皮神経の皮枝には腹側成分だけでなく、背側成分も含まれている可能性があり、手背において両神経の関係は今後さらに考察すべき問題であることが示された。
著者
田中 美智子 長坂 猛 矢野 智子 小林 敏生 榊原 吉一
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.8-16, 2011 (Released:2015-08-28)
参考文献数
32
被引用文献数
2

高齢者14名(男性7名、女性7名)を対象とし、腹式呼吸を行なっている間の、循環や自律神経の反応に加え、ストレスホルモンへの影響について検討した。対象者が通常の呼吸条件と意識的腹式呼吸条件を行っている時にRR間隔と血圧を持続的に測定し、実験前後の唾液もしくは尿のサンプルからストレスホルモンを採取し、分析した。RR間隔から心拍数を算出するとともに、心拍変動を解析することで、自律神経系の指標を算出した。意識的腹式呼吸条件中には、通常の呼吸条件と同様に心拍数の減少を認め、さらに、収縮期血圧及び拡張期血圧ともに低下した。自律神経系の反応では、意識的腹式呼吸条件中に副交感神経系の指標であるlog(L×T)の増加が見られた。実験後に両条件でストレスホルモンの減少が認められたが、意識的腹式呼吸条件では有意な減少であった。以上のことより、意識的腹式呼吸は高齢者にはストレッサーにはなっておらず、リラックスした状態を維持できる呼吸法と考えられる。
著者
佐藤 郁代 涌井 忠昭 辻下 聡馬 齋藤 英夫 中村 真理子
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.10-18, 2021 (Released:2021-10-08)
参考文献数
57

有訴率女性一位、男性二位の肩こりは、慢性疼痛へ移行し、さらなる症状を生み出す。その原因の1つにスマートフォンの利用によるストレートネックがある。Z世代はスマホ世代と呼ばれるように、その使用率は高い。本研究ではZ世代を対象に、経穴刺激を組み合わせたセルフハンドマッサージを実施することによる肩こり感およびストレスの変化を明らかにすることを目的とした。その結果、肩こり感の緩和、左右僧帽筋上部筋硬度の低下および左右項部肩甲上部皮膚温の低下を認め、肩こりを緩和することが明らかとなった。さらに、血圧値および脈拍値の低下、POMS下位尺度の「怒り-敵意」「疲労-無気力」「緊張-不安」および「活気-活力」の低下を認め、ストレス緩和の一助になることが確認された。また、1日当たりのスマホ使用時間が長い者の場合、セルフハンドマッサージでは肩こりが改善されないこと、マッサージ前の左項部皮膚表面温度が高い者ほど、ハンドマッサージの効果が表れることが示唆された。
著者
長谷川 正哉 金井 秀作 清水 ミシェルアイズマン 島谷 康司 田中 聡 沖 貞明 大塚 彰
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.75-80, 2007-03-22 (Released:2010-09-09)
参考文献数
29
被引用文献数
5

靴着用が原因と考えられる扁平足、外反母趾等の障害が増加している。これら足部障害の予防には、靴等の環境要因の改善および足部内在筋強化等の身体要因の改善が重要である。本研究では履物着用中の歩行が足部に及ぼす影響について調査し、その中で下駄着用歩行の有効性について検討する事を目的とした。実験は裸足、靴着用、下駄着用の3条件とし、足趾MP関節運動及び内側縦アーチの動態を計測した。関節角度の計測には三次元動作解析装置であるOxford Metrics社製VICON512を用いた。結果、裸足と比較して靴着用中におけるMP関節運動範囲、Arch運動範囲が有意に減少した。また、靴着用中と比較して下駄着用時にはMP関節運動範囲、Arch運動範囲が改善する傾向が認められた。足趾の積極的な使用が足部障害発生予防に有効であると報告されており、下駄着用による歩行の有効性が示唆された。
著者
小松 恵美 向井 加奈恵 中島 由加里 尾崎 紀之 中谷 壽男
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.17-24, 2014 (Released:2015-05-08)
参考文献数
12
被引用文献数
1

我々は三角筋への筋肉内注射(筋注)部位決定方法である、肩峰より三横指下に代わる新しい方法として、対象者の肩峰外側端の前後中間点(a 点)を決め、この点から三角筋に沿って下ろした線が前後腋窩線と直交する交点(b 点)を決定し、ab 間の距離を布メジャーで三角筋に沿うように測定して、3等分した上1/3ab 点、2等分した1/2ab 点、b 点を適切な筋注部位として発表した。さらに近年、この筋注部位を簡便に決定するための曲尺を用いた器具を作製した。今回この器具で決定した点と、この器具を使用しない布メジャーで決定した点の位置を、ご遺体(男性:11名で83.6 ± 9.3歳、女性:8名で84.3 ± 10.9歳)を用いて比較し、器具の有用性を検討した。各筋注部位の安全性を検討するため、剥皮前に布メジャーで決定した筋注部位の1/2ab 点にゲルを注入した後、三角筋深層の腋窩神経とゲルとの位置関係を観察した。同じく布メジャーで決定した筋注部位の上1/3ab 点、1/2ab 点、b 点の皮膚・筋層の厚さを測定し比較した。器具で決定した点は布メジャーで決定した筋注点よりも、上1/3ab 点で男性は平均5.8 mm、女性は平均7.0 mm、1/2ab 点で男性は平均4.4 mm、女性は平均5.3 mm 低かった。下1/3ab 点は両方法でほぼ同じであり、ここに腋窩神経が位置していた。器具での1/2ab 点は腋窩神経の観察された下1/3ab 点よりも男性は平均14.8 mm、女性は平均13.5 mm高い位置になった。注入したゲルは広がっていたが、腋窩神経はゲルの広がりの中央には位置せず、ゲルの下縁に接するか、ゲルより下方に位置していた。筋の厚さの平均は1/2ab 点とb 点でほぼ同じであり、上1/3ab 点と比べて、男性は約4.0 mm、女性は約5.0 mm 厚かった。これらのことから、器具を用いて測定した上1/3ab 点は、布メジャーを用いた測定と同じように、筋注に適した部位であるので、我々の作製した器具は三角筋の筋注部位を決定するのに有用なものであることが示された。さらに、b 点は上1/3ab 点よりも筋が厚く、1/2ab 点よりも腋窩神経との距離が離れているため、b 点がより安全な筋注部位として適していると思われる。
著者
下高原 理恵 島田 和幸 柴田 興彦 河野 麻理 島田 達生
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.17-22, 2006 (Released:2010-09-09)
参考文献数
20
被引用文献数
1

ヒトの肛門から直腸にかけての上皮の形態を光学顕微鏡、走査電子顕微鏡および透過電子顕微鏡を用いて調べた。組織学的所見から、我々は肛門縁から肛門直腸結合部までを肛門管と定義し、その長さは約4cmであった。さらに、肛門管を歯状線上部と歯状線下部に二分した。肛門と歯状線下部の上皮は角化重層扁平上皮からなり、歯状線下部における角化の程度は肛門よりも弱かった。歯状線上部 (肛門柱と肛門洞) は非角化重層扁平上皮からなっていた。肛門管と直腸の境界は明瞭で、直腸は単層円柱上皮からなっていた。結果的に肛門管は物理的刺激に対して強く保護されているが、直腸は形態学的に刺激に対して弱い構造であった。
著者
坂本 昇 宮宗 秀伸 小宮山 政敏 菅田 陽太 森 千里 清水 栄司 松野 義晴
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.19-32, 2021 (Released:2021-10-08)
参考文献数
23

医師、歯科医師、パラメディカル(コ・メディカル)を含むすべての医療従事者にとって、人体の構造を学ぶ解剖学は重要な学問である。パラメディカルの学生にとって、解剖見学実習は人体構造を学ぶ上で有益であるが、一般的にはその機会は制限されている。ここで、物事に関する興味・関心は教育における重要な変数であり、例えば興味・関心と成績の間には正の相関があることが報告されている。本研究では、解剖見学実習に参加した看護師、鍼灸師、薬剤師、理学療法士・作業療法士、栄養士、救急救命士の各養成校の学生に対してアンケート調査を実施し、人体の解剖学的構造において特に興味・関心を有する部位の調査を行った。2013年7月から2016年3月の間に、千葉大学医学部において解剖見学実習に参加したパラメディカル学生878人を調査対象とした。解析結果は、1)特に学生にとって興味のある器官系は神経系(6領域全て)、循環器系(看護師、鍼灸師、薬剤師、栄養士、救急救命士)、消化器系(看護師、薬剤師、栄養士、救急救命士)、骨筋系(鍼灸師および理学療法士・作業療法士)であったこと、2)これらの器官系について、特に興味のある器官系構成要素は各専門領域間で異なっていたこと、3)神経系と循環器系は、看護領域の専門学校学生1年生と2年生の両方にとって、特に興味のある器官系であったこと、4)両器官系において特に興味のある器官系構成要素は1年生と2年生の間で異なり、しかしながら「脳」は神経系において両学年にとって特に興味のある器官系要素であったことを示した。これらの各パラメディカル領域における学生の興味・関心の違いは、今後、各領域の専門性に特化した解剖学の教育方法を構築していくにあたり、重要な知見となるものと思われる。
著者
柳原 衞 小橋 基
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.31-39, 2019 (Released:2019-11-09)
参考文献数
22

咽頭・喉頭を支配する上喉頭神経求心性ニューロンの興奮により胃近位部弛緩が生じる。この弛緩に、非コリン性・非アドレナリン性(non-adrenergic and non-cholinergic: NANC)伝達が関与する可能性を組織学的手法を用いて検討した。あらかじめ腹腔内にfluorogold(FG)を投与し、上喉頭神経を電気刺激したラット延髄の切片を用いて、抗c-fosおよび抗FG抗体の酵素抗体法による二重免疫染色を行った。c-fos免疫陽性細胞は刺激と同側及び反対側の背側迷走神経複合核群(孤束核、最後野、迷走神経背側運動核)及び腹外側部に認められた。迷走神経複合核群のc-fos陽性細胞は、閂の吻側から尾側の広範囲で観察された。迷走神経節前線維の細胞体を含む迷走神経背側運動核では、FGにより逆行性標識された細胞のいくつかにc-fos免疫陽性細胞が観察された。あらかじめ胃壁にFGを注入し上喉頭神経を電気刺激したラットの延髄切片を用い、抗c-fosおよび抗FG抗体の酵素抗体法による二重免疫染色を行った。この標本でも、迷走神経背側運動核内にc-fos免疫陽性細胞とFGによる二重標識細胞が観察された。さらに、胃壁にFGを注入したラットの上喉頭神経を電気刺激し、延髄切片の蛍光免疫染色をおこなった。FGにより逆行性に染色された細胞に、抗c-fos抗体および抗一酸化窒素合成酵素(NOS)抗体を用いて蛍光免疫染色をおこなった結果、FGで逆行性に標識され、かつNOS免疫陽性を示すとともにc-fos免疫陽性を示す細胞が迷走神経背側運動核の尾側部に観察された。これらの結果から、胃に投射する迷走神経背側運動核ニューロンの一部は上喉頭神経刺激で興奮し、胃弛緩をもたらしていることが示唆された。迷走神経背側核には、一酸化窒素(NO)を介してNANC壁内ニューロンとシナプス結合する節前ニューロンの細胞体が存在することが知られているので、NANC伝達が上喉頭神経由来の胃弛緩に関与する可能性も示された。
著者
隅田 寛 瀧村 洋子
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.21-26, 2003

大脳動脈輪は左右対称に描かれていることが多いが、実際には変異が多く、左右非対称例も多い。大脳動脈輪の左右非対称性について知識を有することはコメディカル分野においても重要である。たとえば診療放射線技師にとっては、脳血管造影読影を誤らないために必要である。今回、左右非対称大脳動脈輪と下小脳動脈の一例に遭遇したのでその形態について観察した。<BR>中大脳動脈の径に左右差は認められなかった。右前大脳動脈交通前部は左に比べて極めて細かった。通常と異なり、前交通動脈の太さは左前大脳動脈と同等であった。この例では、前大脳動脈交通後部は左前大脳動脈の延長として構成されているように見えた。後交通動脈に関しては、右に比較して左側が極めて細かった。また、右後大脳動脈交通前部も極めて細く、右後大脳動脈交通後部は右後交通動脈の延長として構成されているようにみえた。<BR>その他に、左前下小脳動脈は通常に脳底動脈から起始していたが、右前下小脳動脈は椎骨動脈から起始していた。また、左後下小脳動脈に比較して、右後下小脳動脈の径は極めて小さかった。<BR>今回の例は、交通動脈の変異としては左右非対称の代表的なパターンに当てはまる。しかし、椎骨動脈から起始する前下小脳動脈に関しては、このような変異の報告は少なく、本例は数少ない例かも知れない。<BR>血流に関して、右後頭葉はおもに右内頚動脈からの血液を受けていたことが類推される。また、右前頭葉は右内頚動脈からよりもむしろ左内頚動脈からの血液を受けていたことが類推できる。このように、大脳半球に分布する動脈血流の左右差は小さかったものと思われるが、仮に内頚動脈や椎骨動脈が動脈硬化等による血流障害を起こしたとすれば、血流障害の原因となった動脈の血液循環経路から通常に予想される症状とは異なる症状を呈した可能性がある。
著者
野上 龍太郎 島田 達生
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.81-87, 2007-03-22 (Released:2010-09-09)
参考文献数
19

粘血便は潰瘍性大腸炎患者に見られる重要な症状の一つである。この症状は一般的に、大腸で粘液を分泌する杯細胞の増加や、粘液の分泌が亢進したためと推測されている。しかし一方で、潰瘍性大腸炎患者の大腸病変部位では、杯細胞の減少に伴い粘液の分泌量が減少するとの報告がある。この矛盾を解決するために、潰瘍性大腸炎患者直腸の肉眼的に炎症・潰瘍のないほぼ正常な部位と炎症・潰瘍が観察される部位から粘膜を生検にて採取し、糖質組織化学、走査電子顕微鏡および透過電子顕微鏡で検索し、比較検討した。ヒト直腸粘膜上皮の杯細胞は、酸性糖を同定するためのアルシアンブルー (pH.2.5) に対して、強い陽性反応を示し鳥炎症・潰瘍のない部位では、上皮と陰窩に特に多くの杯細胞がみられた。一方、炎症・潰瘍が見られる部位では、陰窩は浅く、陰窩の杯細胞は全体的に少なかった。しかし、粘膜自由表面では代償的に杯細胞の増加が顕著にみられた。さらに、増加した杯細胞の自由表面は著しく膨隆し、粘液の過剰分泌が伺われた。陰窩での杯細胞減少に対する、粘膜自由表面での代償性の増加と、粘液の過剰分泌に伴う激しい凹凸が粘血便発生の要因であることが示唆され、杯細胞減少と粘液便の両見解に矛盾が無いことが明らかになった。
著者
村上 加奈 吉田 彩香 吉永 一也
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.59-63, 2014 (Released:2015-06-12)
参考文献数
37
被引用文献数
1

精子は、精巣上体を通過する過程で運動能と受精に必要な能力を獲得して成熟する。しかし、精子は射精されて雌性生殖管に入るまでは、余分なエネルギーを消費しないように運動が抑制され、休眠状態となっている。この休眠状態を保つために、精巣上体管の管腔液は酸性に保たれている。精巣上体管上皮は明細胞、主細胞、基底細胞で構成される。最近、明細胞はプロトンポンプ(V-ATPase)を発現しプロトン分泌を促進すること、主細胞が分泌する重炭酸イオンはV-ATPase を明細胞微絨毛へ蓄積させる作用をもつこと、そして基底細胞は一酸化窒素を分泌し明細胞のプロトン分泌を促進すること、などが明らかにされてきた。本稿では、こうした異なった種類の上皮細胞によるクロストークと精巣上体の酸性環境を調節する機構について概説する。