- 著者
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柳迫 由佳
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.1602, 2017 (Released:2017-04-24)
【はじめに,目的】運動後に生じる遅発性筋痛(delayed onset muscle soreness:DOMS)は,休止していた運動を再開した時や,運動初心者が運動を開始した時に遭遇することが多い。このDOMSは,関節可動域や筋パフォーマンスを低下させ,健康増進のための運動継続を妨げる要因となる。これまでDOMSの予防及び対処法については多くの観点から議論されており,その中の「低強度運動」については,実施後一時的にDOMSを軽減させるが持続性に乏しいことが報告されている。この「低強度運動」について検証した先行研究を概観すると,低強度とは言えど比較的高負荷の介入課題を用い,かつ介入が一度のみである研究が多く散見された。今回は介入課題の強度・頻度に着目し,運動習慣のない者にも毎日繰り返される「日常生活上の身体活動」が,DOMSの予防及び対処法と成り得るかどうかを検証した。【方法】被験者は健常女性10名(平均年齢20.0±0.0歳,平均身長159.2±4.7cm,平均体重55.7±11.0kg)である。被験者の条件は,①過去半年間に運動習慣がない者②下肢の傷害歴がない者③移動に自転車を用いていない者とした。実験期間は6日間とし,期間中はライフコーダGS(スズケン社製)にて身体活動を記録した。また1日毎に強度別(低・中・高)の活動時間(以下,強度別身体活動量)を算出した。実験2日目には,被験者の利き脚(膝伸展筋群)に60%/RMの負荷量で意図的にDOMSを起こす運動を実施した。DOMSの測定にはVASを用い,運動直後・運動後24時間(以下,h)・48h・72h・96hの5時点に測定した。分析は,まず運動直後を除く4時点のVASと実験期間中1日毎の強度別身体活動量との相関係数を求め,関係性を確認した。次に相関係数から関係性が有意であった組み合わせにおいて,運動後48h・72hのVASをそれぞれ従属変数,実験1日目および2日目の強度別身体活動量を説明変数とし,重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。【結果】DOMS平均値は,運動後24hでは6.6±1.2cm,48hでは4.4±2.6cm,72hでは2.3±2.1cm,96hでは0.3±0.4cmであった。実験1日目の強度別身体活動量は,低強度48.8±51.8分,中強度13.1±18.6分,高強度1.2±1.5分であった。また実験2日目においては低強度44.1±24.8分,中強度10.8±8.2分,高強度1.1±1.1分であった。重回帰分析の結果,運動後48hのVASでは実験2日目の低強度活動時間が有意な因子として抽出され(β=-0.71,P<0.05,R*2=0.59),運動後72hのVASでは,実験1日目の高強度活動時間が有意な因子として抽出された(β=-0.62,P<0.05,R*2=0.36)。【結論】今回の結果から,運動前日の高強度身体活動量および運動当日の低強度身体活動量には,DOMSの回復を促進させる効果があることが示された。スムーズに運動継続に繋げるために「生活上の身体活動」のDOMSに対する有効性が示唆された。