- 著者
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柿本 典昭
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.2, pp.203-211, 1987-12-30 (Released:2008-12-25)
- 参考文献数
- 14
- 被引用文献数
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本稿は個々の漁村の研究を通じて水産に関する地理学的研究をこころみる際に,どのような配慮がなされるべきかを,主としてわが国の場合を中心に論述したものである. 漁撈行為=狭義の漁業も,人類の最も初源的な行為の一つであるから,人類の自然に対する根元的な反応・適応のあるべき姿を学びとることが出来ると思われているので,伝統的な農業や狩猟業と同様に,すぐれて文化的な現象と考えられる.したがって,従来の伝統的な研究視角としての経済地理学的視角・集落地理学的視角のほかに,文化地理学的視角が必要であると考える立場が支配的となって来た.このような考え方をとる代表的な研究者の一人,斎藤毅の所説に触発され,斎藤論文の批判的な評価をおこないつつ,筆者自身の考え方を披瀝してみた. 結論的にいうならば,陸上と海域の双方を生産と生活の場とし,双方の生態系を監視する立場を保持し続けて来た沿岸住民の生活の場としての臨海集落の研究が,まず何よりも重要な課題となって登場して来るであろう.このような臨海集落は,わが国の場合,旧藩時代以来,伝統的に漁浦とよびならわされて来た小さな村落社会=生活体を形成し,現在の漁業協同組合を構成するような生活体に,系譜的につながっているケースが多い.したがって,この漁浦は,斎藤の指摘するような地理学と水産学の双方の境界領域に形成される一種のフロンティアとして,水産地理学樹立のための研究対象に位置付けられるであろう.何故ならば,斎藤も指摘するように,現実に即し,地域に即したきめ細かい水産地理学的な研究には,前述のような経済地理的・集落地理学的・文化地理学的といった限定された一つの研究視角によらない総合的・包括的にとらえるべき領域,すなわち,水産誌・地域漁業政策論的なもののウエイトが高まって来るにつれ,各々の漁村とその背域の地域(沿岸部海域と沿岸陸上域の双方)の実態の正しい把握が必要となるからである. さらにまた,200カイリ時代の到来によって形成された,あたらしい世界的漁業の秩序=水産究間秩序に対応するためと,沿岸域(陸上)の正しい利用の仕方を理解する時の出発点と考えられるからである.