著者
栂 浩平
出版者
日本大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

一部の昆虫では,混み合い条件では変態(幼虫から蛹を経て成虫へ至る過程)が抑制され,混み合いから解放されると変態する現象が知られる.混み合いと言う環境要因を認識し,発生過程を可塑的に変化させることを可能にする機構はどのようなものだろうか.本研究では混み合いによる変態抑制に関わる発生遺伝学的な機構を明らかにするため,以下の解析を行った.ツヤケシオオゴミムシダマシの幼虫は集団飼育条件では変態しないが,隔離飼育によって変態が促進される.隔離後に集団飼育に移すと変態を抑制できることがわかった.昆虫の変態は幼若ホルモン量の低下と脱皮ホルモンの分泌によって促進される.これらに関連する遺伝子の発現解析を行ったところ,脱皮ホルモン関連の遺伝子が混み合いに移行後に発現が低下していることがわかった.脱皮ホルモン(20-Hydroxyecdysone)の注射によって混み合い条件でも変態が促進されたことも合わせると,混み合いは脱皮ホルモンの上昇を抑制する効果があることがわかった.一方で,混み合い条件における幼若ホルモン関連の遺伝子の発現の上昇に有意な差は見られなかった.しかし,発現は混み合い条件で上昇している傾向にあるため,詳細な解析が必要と考えられる.これまで変態の抑制は幼若ホルモンによる抑制が一般的に知られているが,混み合いによる変態抑制は脱皮ホルモンの制御によって達成されることを示した.混み合いによって発現が変動する遺伝子を探索するため,隔離条件と混み合い条件で飼育した幼虫を用いて,RNAシーケンス解析を行った.その結果,混み合いで発現が上昇もしくは減少する遺伝子を22個見つけた.今後は,これらの遺伝子をRNAiによりノックダウンし,混み合い条件での飼育でも変態してしまう遺伝子かどうかを検証する.