著者
呉座 勇一
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

本年度は、論文「網野善彦とベラ・ザスーリチへの手紙」を執筆し、石母田正や松本新八郎、藤間生大らが主導した民族解放運動である「国民的歴史学運動」から離脱した網野善彦が、どのようにして「網野史学」を形成していったかを再考した。網野は運動からの離脱後、歴史学研究会などの学界とは距離を置き、独学でマルクスの著作を読みなおすことによって自身の学問を確立した、と後年回顧している。旧来の史学史研究はこの網野の回顧談を基本的に信用してきたが、本稿では、網野の学問的変遷を、彼自身が残していた論稿を中心に、時代ごとに再構成することで、後年の回顧談を相対化することに成功した。また、2019年9月には立命館大学2019年度研究推進プログラム公開シンポジウム「なぜ『歴史』はねらわれるのか? 歴史認識問題に揺れる学知と社会」に登壇し、報告「「自虐史観」批判と対峙する―網野善彦の提言を振り返る」を行い、排外主義・歴史修正主義が蔓延する現状に対処するヒントを、戦後歴史学に対する網野の提言に求めた。加えて、国文学者の兵藤裕己氏と対談を行った。対談を通じて、太平記研究がいかに戦後歴史学の大きな影響下にあったか、認識を深めることができた。特に、石母田正や松本新八郎といった国民的歴史学運動の主導者たちの問題意識に、太平記研究が今なお規定されていることを確認することができた。論文「南北朝内乱と『太平記』史観―王権論の視点から―」も上記の問題意識に基づき執筆した。『太平記』の歴史観は戦後歴史学にも親和的だったため、『太平記』の批判的検討は進まず、「史学に益なし」との掛け声とは裏腹に、知らず知らずのうちに南北朝史は『太平記』に呪縛されてきた。論文執筆を通じて、その問題の根深さが明らかになったのは収穫だった。さらに中世史学者の峰岸純夫氏にインタビューを行い、戦後歴史学の軌跡について、体験談を交えつつ語っていただいた。
著者
山中 智省
出版者
目白大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、日本の若年層向けエンターテインメント小説の一つであるライトノベルを、「若年層の読者たちを戦略的に獲得することを企図した出版メディア」と捉えた上で、その段階的な発展過程を、メディア論的視座を重視した文化研究の立場から実証的に探っていく。また、以上の調査・分析を通して、ライトノベルがもたらした小説や物語の受容・創作のあり方、ならびに若年層の文学・読書能力や教養の形成状況などを包括的に捉えつつ、現代日本の「文学」に生じた変容/再編の具体相を明らかにする。
著者
北村 紗衣
出版者
武蔵大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は16世紀末から21世紀初頭までの英国を主な対象とし、近世イングランド演劇の上演史上、男性の美や性的魅力がどのようにとらえられ、またその受容にどのような変化があったのかを問うものである。ウィリアム・シェイクスピアやクリストファー・マーロウなどの劇作家が活躍していた近世から現在のウェストエンドにいたるまで、男性スターの魅力は集客上の大きなポイントであったと考えられる。戯曲テクスト、上演史、批評史に関する調査を通して、近世イングランド演劇の上演において男性の美や性的魅力に対する考え方はどのように変遷してきたかを明らかにしたい。
著者
白川 展之
出版者
文部科学省科学技術・学術政策研究所
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、社会科学研究者とその業績評価(専門領域の研究者のピアレビュー及び所属大学における昇進・業績評価)を分析範囲とし、大学組織における業績評価と研究者個人の専門家間における評価・評判とのギャップについて調査する。このため、社会科学研究の全体構造を俯瞰的・定量的に分析するために社会科学の論文データを分析する。さらに、この情報を基に、国内外の研究大学を調査対象に、国内外の研究大学における研究業績評価と昇進の実態構造を調査・分析する。
著者
鬼塚 陽子
出版者
群馬大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

シャーガス病の原因となるTrypanosoma cruziには、宿主防御反応を回避し、自らが生き残る機構が存在するという仮説を立て、宿主の病原体排除機構「オートファジー」に着目した。これまでに、原虫感染細胞では宿主オートファジーが抑制され、特にオートリソソーム形成が進行しないことを明らかにした。そこで、オートリソソーム形成に関わるSNARE 複合体 (Stx17, VAMP8, SNAP29) に焦点をあて、複合体と相互作用する因子を探索する。その機能を in vitro、in vivo の実験系を用いて解析し、原虫感染率、病態に対する影響を評価する。
著者
木舩 崇
出版者
九州大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、最も頻度の高い神経発達障害の一つである。ASDの発症には、松果体系とドーパミン系の機能不全が関与する可能性があり、それぞれ独立してASDへの関連が研究されてきた。しかし、松果体から分泌されるメラトニンは、睡眠導入の他、抗酸化、抗炎症、抗アポトーシスなど多様な作用を示すことから、この両者の間にはASDの発症に関する病理学的相互作用が推定される。本研究では、病態モデルとしてASD児から供与された乳歯幹細胞(SHED)をドーパミン作動性ニューロン(DN)に分化誘導し、両者の相互作用を細胞生物学的解析により明らかにする。本研究は、ASDの発症機序解明と治療法開発に寄与すると期待できる。
著者
平野 史朗
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

地震時に断層面上の滑り速度が満たすべき偏微分方程式の、最も基本的な形式を考察した。従来の震源物理学における順問題的アプローチとは異なり、地震波の観測から知られる経験則を満たすという要請から出発することで、Klein-Gordon 型という方程式を導いた。この方程式はこれまでにも順問題的に提唱されたことがあったが、全く異なる方向から類似のモデルが導かれることを示したのがひとつめの主要な結果である。次いで、この方程式に確率的な揺らぎをもたらすノイズ項を付加したものが断層の支配方程式であると考え、そのノイズが満たすべきパワースペクトル密度について考察した結果、まずはこの方程式についてのインパルス応答を調べることが重要と判断した。そこで差分法によりインパルス応答を近似計算したところ、方程式に含まれるパラメタ間の比に応じて、断層滑りが波のように伝播する場合と、拡散する場合の2通りが得られることが分かった。前者は通常の地震の振舞いとしてよく知られるが、後者はスロー地震のモデルとして提案されていたものであり、それらを包括的に説明しうるモデルであると考えることができる。また、それらパラメタの正負が断層面上の摩擦則において考えられてきた滑り距離依存性と滑り速度依存性に関係することも見出された。以上の結果を、12月の American Geophysical Union 2019 Fall Meeting にて公表し、他研究者と議論した結果、今後の方向性についていくつかの可能性が得られた。