著者
會田 直弘 伊藤 泰平 栗原 啓 剣持 敬
出版者
一般社団法人 日本移植学会
雑誌
移植 (ISSN:05787947)
巻号頁・発行日
vol.57, no.Supplement, pp.s154_2, 2022 (Released:2023-02-23)

移植医療の進歩に伴い,移植後の生活の質は向上している.移植後に挙児を希望する患者も増加しており,すでに多くの患者が児をもうけている.男性移植患者に限ってみると,米国のNational Transplantation Pregnant Registryの報告では2015年までに879名の移植患者が児をもうけているとされる.心臓,肺,肝臓,小腸,膵臓,腎臓移植のいずれの男性移植患者でも報告があり,このうち43名は多臓器移植患者であった.このようにいずれの男性移植患者でも児をもうけることは可能である.移植後の妊娠・出産においては,主に女性を中心とした報告が注目を集めている.しかしながら,男性移植患者においても継続的な免疫抑制剤の内服が必要であり,薬剤の妊孕性への影響について移植医は十分に認識すべきである.多く使用されるカルシニューリン阻害薬は動物実験において精子数を減少させる可能性が指摘されており,mTOR形成阻害薬はテストステロンの低下,精子数の減少による受精能力の低下が指摘されている.一方でミコフェノール酸モフェチルは妊孕性への影響の報告はない.また、受精後の周産期合併症や胎児への影響についてはリスクが高いと示すものはなく、健常者と同等であると考えられる.男性移植患者の妊孕性や注意点についてガイドラインに基づき解説する.