著者
栗原 秀幸
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

食後高血糖抑制効果を期待できるα-グルコシダーゼ阻害物質を水産食品中に見いだす研究はほとんどなされていない。その萌芽的研究として、本研究により海藻食品のヒジキからα-グルコシダーゼ阻害物質を初めて単離し、構造、阻害活性および様式を明らかにした。まず、寒天平板を用いたα-グルコシダーゼ阻害性試験を指標として、阻害成分の分画をおこなった。市販乾燥ヒジキの含水メタノール抽出物から各種クロマトグラフィーにより分画し、二種類の阻害物質を単離した。得られた両阻害物質はともに糖および含硫化合物呈色試験に陽性で、GCにより脂肪酸残基の存在が明らかとなった。各種臓器分析(IR、UV、MS、NMR)の結果から、両阻害物質の構造を植物の主要な糖脂質である6-スルホ-α-キノボビラノシルジアシルグリセロール(SQDG)およびそのリゾ型の6-スルホ-α-キノボビラノシルモノアシルグリセロール(SQMG)と決定した。速度論的解析により、SQDGの酵母α-グルコシダーゼに対する阻害物質定数(Ki)を3.0μMと、阻害様式を拮抗型阻害とそれぞれ明らかにした。SQMGの単離量が少なく、Kiを求めることができなかったので、SQMGとSQDGの同濃度での酵素阻害率を比較したところ、SQMGの阻害活性が2.5倍強かった。以上のように、ヒジキから新タイプのα-グルコシダーゼ阻害物質として糖脂質を得た。本研究では、SQDGとSQMGの酵素阻害性は始めて明らかにされ、糖脂質研究の中でも遅れていたグリセロ糖脂質を対象とした研究発展の端緒となるに違いない。今後、スルホキノボ-ス類縁体の酵素阻害性や単離した阻害物質のin vivoでの有効性を検討する必要がある。