著者
栗林 一彦
出版者
宇宙科学研究所
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

III-V族化合物半導体の溶液成長過程においてしばしば見られる巨大ステップ(マクロステップ)はドーパントの偏析をもたらす等により、結晶の品質を著しく損なうことが指摘されている。本研究は、赤外線を観察光とする顕微干渉計を用い、III-V族半導体であるGaPの溶液成長過程をリアルタイムで観察し、マクロステップの形成に関する液相中の温度勾配、流れ等の影響から、成長面形態の安定性に関する知見を得ることを目的としている。本年度は、上記リアルタイム観察から求めたマクロステップ間隔λを拡散支配モデル及び濃度境界層モデルによる計算と比較し、液相中の流れによる撹拌の影響の検討を行なった。西永らによる拡散律速型の界面安定性理論を、液相中の流れの効果を取り入れた濃度境界層モデルに拡張すると、λは2π√<DC_<e0>τ_D/C_sR(t)><^^-λ<^^-2π√<3DC_<e0>τ_D/C_sR(t)>で与えられる。ここでC_<e0>は曲率が0の時の液相中の平衡溶質濃度、C_sは固相中の溶質濃度、τ_Dはキャピラリー定数、Dは拡散係数、R(t)は成長速度である。λ、R(t)はそれぞれ明視野像、干渉縞像から求めた。これらの実測値は上記の関係を満たした。このことは、マクロステップの拳動は西永らの界面安定性理論でかなり良く説明できることせ示すものといえよう。また上部を冷却、下部を加熱すること等により液相中に積極的に流れを生じさせた場合、λは小さくなること、さらには、ステップクーリング及びニアクーリング法のいずれの場合もマクロステップが発生・発達したのは対照的に、適当な正の温度勾配がマクロステップの発生を抑制することが確認された。この結果は、温度勾配の付加が流れの抑制及び界面の安定化をもたらすことを示すものである。