著者
阿部 正義 清水 直美 柴田 和彦 桂木 猛
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.116, no.supplement, pp.88-93, 2000 (Released:2007-01-30)
参考文献数
12

気管支喘息の病態での補体活性化の関与を検討した。能動感作ラットに抗原(OA)と共に補体活性化産物であるアナフィラトキシンC5aを気管内投与すると、即時型反応に引き続いて持続的な気道抵抗の上昇を認めた。同時に胆汁中の Cysteinyl-Leukotrienes の主要な代謝物であるN-Ac-LTE4を測定するとOAとC5aの同時刺激により持続的に肺での Cysteinyl-Leukotrienes 産生の増加が認められた。一方、能動感作ラットにOAを反復曝露することにより気道粘膜下組織に好中球を中心とした著明な炎症性細胞浸潤と遅発型の気道反応をおこす実験モデルを作成した。肺組織を抗C5a受容体抗体で免疫染色すると、浸潤した好中球並びに肺胞マクロファージにその発現が認められた。次に、補体系をその上流(C3およびC5転換酵素レベル)で阻害する、二種類の抗補体剤(nafamostat mesilate (Futhan) 並びに sCR1)で前処置してから抗原を曝露すると、いずれも遅発型反応を抑制したがsCR1の方がより強く抑制した。病理組織学的にも反復抗原曝露による炎症性細胞浸潤はsCR1前処置により著明に抑制された。またC5a受容体拮抗剤で前処置すると遅発型気道反応並びに気道粘膜下への細胞浸潤はともに抑制された。更に、sCR1前処置により補体系を阻害したラットに抗原とともに微量の C5a des Arg を気管内に投与すると遅発型気道反応並びに気道粘膜下組織への炎症性細胞浸潤の両方を再現することができた。一方、Interleukin-8ファミリーに属する Cytokine-induced neutrophil chemoattractant-1 (CINC-1) は C5a des Arg の100倍濃度まで使用しても有意の作用は認められなかった。以上より、反復する抗原・抗体反応により産生される気道内の微量C5aが一部の喘息の病態を重症化していると考えられ、抗補体剤、殊にアナフィラトキシンC5a受容体拮抗剤は新規の抗喘息薬に成り得る可能性が示唆される。