著者
桑原 佑典 Tore Eriksson 釣谷 克樹
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.6, pp.260-264, 2014

精神疾患領域には大きなアンメットメディカルニーズが残されており,治療薬開発や創薬標的探索に向けた研究が企業やアカデミアで行われているが,その基礎となる疾患の発症分子メカニズムさえも未だに不明な部分が多い.近年のゲノム解析機器のハイスループット化に伴い,一塩基多型(SNP)を用いたGWAS(ゲノムワイド関連解析)が開発され,精神疾患分野においても数千人以上の大規模患者集団を用いた疾患関連遺伝子探索に関する研究成果が数多く報告されている.統合失調症においては,TRIM26 やTCF4 等の遺伝子やmiRNA の関与が見出され,これらを含めた新たなメカニズムが検討されつつある.また,次世代シーケンサーの急速な発展によって,一塩基変異(SNV)やコピー数多型(CNV)といった個人毎の稀な変異を対象とするエクソーム解析や全ゲノム配列解析といった技術も開発され,これらからも統合失調症患者でARC の複合体やNMDA 受容体複合体に変異が多い等の一定の成果が得られつつある.動物モデルなどを用いる精神疾患に対する従来の研究手法には限界もあり,今後の新機軸の一つとして,患者のゲノム情報を中心とし,遺伝子発現等の既存情報をバイオインフォマティクス技術を用いて統合解析し,発症メカニズムの解明や創薬標的の探索に取り組む流れが現在注目されている.また,バイオインフォマティクス技術は,既存薬や開発中の化合物について新たな適応疾患を探索するドラッグリポジショニングにも応用されている.新たな適応疾患は臨床開発時や市販後の臨床研究で明らかになる場合が多いが,早期にその可能性を見いだすことが製薬企業には重要であり,この解析にバイオインフォマティクスは欠かせないツールとなりつつある.本稿では精神疾患創薬研究におけるバイ オインフォマティクスの活用として,新規創薬標的の探索とドラッグリポジショニングの2 つの観点から最新の知見を紹介する.