著者
中川 善典 桑名 あすか
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.105-124, 2018 (Released:2021-04-12)

本研究は,民芸論や民具学において殆ど着目されてこなかった,民芸/民具の作り手の人生に注目した質的研究で ある。具体的にはまず,準備的検討として,対象物をほぼ共有する一方,殆ど交わることなく発展してきた民芸論 と民具学においてそれぞれ中心的な役割を果たした柳宗悦と宮本常一とに注目し,両者に共通する作り手像とし て「社会から軽視された作り手」「使い手と信頼で結ばれた作り手」「集団的な力に導かれた作り手」の3つを抽 出した。次いで,高知県芸西村に古くから伝わる民芸/民具の唯一の伝承者である宮崎直子氏が笠製作に見出し ている意味を解明するためのライフ・ストーリー・インタビューを行った。彼女は高齢であり,後継者がいない ため,この笠製作の技術は消えつつある。このインタビューにより,作り手に関する上記の三側面は確かに彼女に とっての笠製作の意味を理解する上で重要なテーマになっていることが分かった。また,それらが互いに関連し 合う構造が明らかになった。最後に,消えつつある民俗文化財の保存に際して,作り手のライフ・ストーリーとと もにそれを後世に残す意義について検討した。