著者
久喜 絵理 桑垣 佳苗 吉野 恭正
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.239, 2011 (Released:2011-08-03)

【目的】うつ病があるとリハビリテーション(以下,リハ)は滞り,予測通りにはADLが向上しにくい.また,うつ病には波があり躁期と増悪期がある.今回,うつ病を有する右膝蓋骨骨折の患者を担当し,入院中にそれぞれの時期を経験したので,以下に報告する. 【方法】カルテ記録より経過を追い考察をする.本症例には発表の了承を得ている. 【結果】2010年4月4日自宅の庭で転倒,右膝蓋骨骨折を受傷,同日入院.翌日より術前リハ開始.4月15日観血的整復固定術施行,翌日より術後リハ開始.4月22日骨折部の転位あり,4月27日再度観血的整復固定術施行.翌日より右膝関節運動禁忌にて術後リハ再開.5月6日骨折部の再転位あり.右膝関節伸展位でのギプス固定にてリハ介入継続.この頃から消極的な発言が聞かれ始めた為,リハ介入時間を統一した.5月17日よりルジオミール投薬開始.この頃から他者依存や危険行動が目立ち始めた.7月1日ギプス固定からニーブレースへ変更.大声,暴言も著明となり明らかなうつ病の増悪と意欲・発動性の低下が認められた. 7月14日精神科受診にて炭酸リチウムが減薬となった.病棟での問題行動は続いていたが,言動や表情がやや改善されてきた.7月30日主治医より,自宅退院かそれ以外か決めるよう説明がされた.8月5日自宅への試験外出以降,リハ意欲の向上を認め,病棟生活の質も向上した為,リハ介入時間を再度統一した.9月4日介護サービス導入にて自宅退院となった. 【考察】うつ病患者は意欲を持ちにくく,意欲が安定して継続しない為,リハは難渋しやすい.生活の中にパターン化・習慣化された行動を取り入れることが効果的とされている為,介入時間と訓練内容を一定化させた.生活範囲の狭小化に伴う流入刺激の減少にて,うつ病が増悪するとされている為,病棟での安静度や歩行練習量を増減させた.更に本患者は他者依存が強かった為,口頭指示のもと監視下でのADL動作練習を行い,病棟へ伝達した.うつ病治療薬の効果は,投与後1~2週間で発現する.本患者はうつ病増悪後,専門医により抗躁薬が減薬された.リハ意欲が伺え始めたのは減薬9日後であり,病棟生活も含め快方を認めたのは減薬23日後であった.薬効が現れ始めた頃に自宅への試験外出を行ったことで, 今後の見通しが定まり,心理的相乗効果が精神状態を安定させたと考える. 【まとめ】うつ病には波がある為,投薬状況と患者の言動や精神状態の観察と照合が必要と考える.また,身体能力と精神状態に応じて,運動負荷や課題の難度調整が必要である.