著者
伊東 睦泰 桑木野 広美 山科 一樹
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.469-477, 1993-03-31
被引用文献数
1

リードカナリーグラスにおける既存分げつの生育と新分げつの発生の関係を知るため,年3回刈で利用中の草地の1番草(6月5日刈取)および2番草(7月28日刈取)群落から,生育良好な揃った既存分げつを経時的に採取し,着生節位別の葉身,葉鞘,節間,分げつ芽長,ならびに各器官の乾物重を計測した。1番草および2番草における既存分げつ各器官の形成・発達のパターンは,既報の模擬群落における観察結果とよく一致し,葉身長は第1葉では著しく短いものの,以後上位に向かって急速に長さを増大して第7葉近辺で最大となり,それより上位では再び短くなった。また節間は,1番草では5月上旬に第4,5節間から,2番草では刈取後約20日を経過して以降に第3,4節間から順次伸長を開始した。かくして,その後の約10日間は,節間部の相対生長率は著しく高まり,生育開始後30日を経過した段階に至っても,既存分げつの相対生長率は高く維持された。既存分げつの各節に着生する分げつ芽は,それぞれ節間伸長開始前の段階にある1番草の4月26日,ならびに2番草の6月26日には,下位の節間も含めてほとんどが休眠状態で,いずれも4.0mm以下であった。1番草,2番草とも,母茎の生長と並行して順次新しい分げつ芽が増加するが,それに伴ってその時々の最上位展開葉節の直下2,3節ではほとんどが休眠状態にある一方,それ以下の各節分げつ芽は徐々に伸長して全長4.1-16.0mmの分げつ芽が増え始め,ついで,母茎節間の伸長が明瞭となる1番草の5月17日,2番草の7月8日の段階に至ると,16.1mm以上に伸長した分げつの割合が増加した。以後,1番草ではこの16.1mm以上分げつの割合は増大を続け,刈取時(6月5日)には既存分げつ当り1茎を超えた。これら母茎節間の伸長開始と前後して萌芽を開始する分げつ芽の着生節位は,1番草では第1-3葉,2番草では1-2葉の葉腋またはそれ以下の非伸長節間に位置し,その大部分が根茎的に伸長していた。既存の分げつの節間の伸長が活発化する時期に,それまで休眠していた下位節間の分げつ芽が並行して萌芽を開始するという本草種の特異な習性は,新分げつ中心の旺盛な再生と高密度維持を可能にする上で重要な要素と考えられる。