著者
佐藤 庚 西村 格 伊東 睦泰
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.9-15, 1969-04-20

オーチャードグラスの品種Frodeの中から選んだ4クローンを用いて2段階の密度に混植した草地を作り,窒素施用量,1番草刈取りの早晩が構成クローンの役割などに及ぼす影響をしらべた。刈取り処理は1番草を穂孕期(5月17日),出穂期(5月24日),開花盛期(6月6日)および結実期(6月20日)の4回に行ない,2番草はそれぞれの1番刈り6週間後に刈った。1.競争の少ない粗植区の生育からみたクローンの特性は次のようである。クローン1:草丈高く茎数は少ない。クローン2:草丈はクローン1より低いが茎数は多い,クローン3:草丈はクローン2よりさらに低いが茎数は多く,葉身の窒素濃度は他のクローンに比べかなり低い,クローン4:草丈は最も低く分けつ性も弱い。2.光,養水分などに対する競争の少ない生育初期に1番草を刈る場合には,草丈はある程度低いが分けつ性の強いクローン2,3の生育量が多く,草地の収量および密度に対する貢献度が高かったが,1番草の刈取り時期がおそくなるにつれ草丈の高いクローンが次第に優勢となり,収量に対する貢献度は最高となった。クローン1は遺伝的な分けつ性が低いと思われたのに茎数密度に対する貢献度も増加した。次いでやや草丈の低いクローン2が収量貢献度高く,クローン3,4の順に低下した。3.1番刈り後の再生においても1番草とほぼ同様なクローン間の序列を示したから,1,2番刈り合計収量における各クローンの寄与の程度は,早刈りの場合にはクローン2,3が,晩刈りの場合にはクローン1がそれぞれ最も高かった。草丈の高い直立性のクローンは乾草ステージの刈取りで,草丈の低い多けつ性のクローンは放牧ステージの刈取りでそれぞれ草地の密度においても収量においても優勢となった(Fig.s.5,7)。4.環境や栽培管理法によって粗植条件で示されたクローンの特性が大きく変動することは注目を要するところで,粗植のときの特性から直ちに草地における得失は論ぜられない。
著者
伊東 睦泰 桑木野 広美 山科 一樹
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.469-477, 1993-03-31
被引用文献数
1

リードカナリーグラスにおける既存分げつの生育と新分げつの発生の関係を知るため,年3回刈で利用中の草地の1番草(6月5日刈取)および2番草(7月28日刈取)群落から,生育良好な揃った既存分げつを経時的に採取し,着生節位別の葉身,葉鞘,節間,分げつ芽長,ならびに各器官の乾物重を計測した。1番草および2番草における既存分げつ各器官の形成・発達のパターンは,既報の模擬群落における観察結果とよく一致し,葉身長は第1葉では著しく短いものの,以後上位に向かって急速に長さを増大して第7葉近辺で最大となり,それより上位では再び短くなった。また節間は,1番草では5月上旬に第4,5節間から,2番草では刈取後約20日を経過して以降に第3,4節間から順次伸長を開始した。かくして,その後の約10日間は,節間部の相対生長率は著しく高まり,生育開始後30日を経過した段階に至っても,既存分げつの相対生長率は高く維持された。既存分げつの各節に着生する分げつ芽は,それぞれ節間伸長開始前の段階にある1番草の4月26日,ならびに2番草の6月26日には,下位の節間も含めてほとんどが休眠状態で,いずれも4.0mm以下であった。1番草,2番草とも,母茎の生長と並行して順次新しい分げつ芽が増加するが,それに伴ってその時々の最上位展開葉節の直下2,3節ではほとんどが休眠状態にある一方,それ以下の各節分げつ芽は徐々に伸長して全長4.1-16.0mmの分げつ芽が増え始め,ついで,母茎節間の伸長が明瞭となる1番草の5月17日,2番草の7月8日の段階に至ると,16.1mm以上に伸長した分げつの割合が増加した。以後,1番草ではこの16.1mm以上分げつの割合は増大を続け,刈取時(6月5日)には既存分げつ当り1茎を超えた。これら母茎節間の伸長開始と前後して萌芽を開始する分げつ芽の着生節位は,1番草では第1-3葉,2番草では1-2葉の葉腋またはそれ以下の非伸長節間に位置し,その大部分が根茎的に伸長していた。既存の分げつの節間の伸長が活発化する時期に,それまで休眠していた下位節間の分げつ芽が並行して萌芽を開始するという本草種の特異な習性は,新分げつ中心の旺盛な再生と高密度維持を可能にする上で重要な要素と考えられる。
著者
渋谷 功 山田 豊一 広田 秀憲 伊東 睦泰
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.259-269, 1979-01-31

1.本研究は,牧草群落における競争をある特定期間に限定するのではなく比較的長期にわたり年数回の剪葉を繰り返えしながら経時的にとらえることにより,群落構造変動のしくみとそれに果す競争の役割を解明しようと企画された。そのため,まずprimary canopyでの競争の初発とその自律的発現因子との関係をイタリアンライグラスを用いた5実験により調べ,ここに第1報とした。2.自律的誘発因子として種子の大小を取りあげた。大粒種子は小粒種子にくらべ胚乳のみでなく胚(幼芽,幼根)についても大きく,また離乳期間内の生長もよく,そのため出芽幼植物の生長にも勝った。出芽率は初めの1週間では小粒種子よりも大粒種子で明らかに高かったが,3週間にはその差は消えた。3.以上の結果をふまえて,大粒種子幼植物と小粒種子幼植物,あるいは早播幼植物と晩播幼植物をそれぞれ単播および混播したところ,LAIがおよそ1前後に達した頃より競争効果がみられ,小粒種子植物は大粒種子植物により,また晩播植物は早播植物により増数的形質について生長が抑圧された。早播植物は競争の結果,単播区の生長より勝ったが,大粒種子植物の場合そのような正の競争効果は明らかでなかった。4.本実験結果に既往の諸報告を加味して考えると,新播牧草のPrimary canopyにおいては,種間,種内を問わず,まず種子の大小や出芽の遅速により自律的に競争が生起するのは明らかである。