著者
桝田 絢子
出版者
上智大学
雑誌
人間学紀要 (ISSN:02876892)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.49-77, 2006-12-20

「人間学」では、人間とは何かをさまざまな側面を通して学んでいく。人間学がなかった時、人々はどのようにして人間のあり方を考えたのだろう、という問いかけにこの論文は発している。宗教、慣習、神話、伝説とある人類の遺産から、特に身近にある昔話に焦点を絞り、その中でも、世界的に読まれ続けている『グリム童話集』を取り上げた。この『童話集』の価値がどこにあり、なぜ、ここまで、永きに渡って読まれているのかを、今回は、昔話を蒐集し、編纂したグリム兄弟の生い立ちと業績から考察した。ヤーコブとヴィルヘルムがまだ少年時代、父の死による、母と六人兄弟という困窮生活で、父親に代わって一家を受けとめ、伯母や恩師、仲間に助けられて世界的な学者となって前進してゆく姿は、昔話に登場する一番下の子供が冒険に勝利を収めていく姿を髣髴とさせる。彼らの生き方そのものが『童話集』に集められた話には満載されている。そればかりでなく、兄弟の学識の広さと深さと徹底性が、彼らの『童話集』を類まれな古典とした。