著者
桶谷 弘美
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.120-128, 2011-01-31

音楽を学ぶ者の前に立ちはだかる大きな障壁は、音楽理論を正確に把握することである。難解な専門用語が簡単に理解できないからだ。コード-・ネームや音程や音階あるいは五度圏等の解説には、通常専門用語を用いて説明が施されるが、これがスタート早々に躓きになってしまう。そこで、これらの専門用語をすべて数字に置き換えてみることにした。端的に言えば、半音ずつ数えていく方法で、習得困難な専門用語を理解させる試みである。例えば、長3度は5、短3度は4として、その数字から長3度とか短3度という用語を頭に入れさせるのである。また、五度圏の説明で、♯或いは♭が完全5度ずつ移動するというところを、8の移動に変えるだけで成り立つことを納得させることができる。この小論は、音楽を学ぶ者や初心者に刺激と学習意欲を燃やす動機と効果をもたらす指導法として論じたものである。この数字の代替理論は、筆者の独創によるものである。ゲームを楽しむような仕方で学べることが救いであり、本来の専門用語に徐々に慣れ親しむようになることが特筆すべき点である。
著者
桶谷 弘美
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要 (ISSN:13471287)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.107-120, 2003-01-31

五嶋みどりは国際的に傑出したヴァイオリニストとして著名である。本稿は、彼女を幼くして並はずれた技能をもつヴァイオリニストとなしえた要因を探ろうとする試みである。とりわけ、世界の音楽界の頂点に立つ彼女の活動を可能にさせた家庭での教育がどのようなものであったのかを追究してみることにした。 高度の音楽的技術を生み出すには才能だけでなく、たゆまざる努力を重ねなければならないことはだれもが認めるところであろう。優れた芸術家であっても専門分野の最も高い水準の域に到達することの困難さは、音楽界においてもごく普通にみられる事象である。しかし、その分野におけるごく少数の抜きんでた存在として認められることを目指して、平生の日々において、若い人たちが技術の習得のために練習に精を出し尽力しているのは何によるものなのであろうか。 専門分野での最高峰の地位を切望するどの音楽家でも、大きな犠牲を払う心構えがなければならないはずである。多くの者が中途で脱落していくなかで、そのような代償をすすんで払い、それによって得るものは何であろうか。大抵の場合、子供がその素質をもって興味を示す事柄に子供を方向づけることは親の責任である。たとえ時には、親が子供をそのように導きながらもそれを強要していると受け取られても。 本稿では、みどりの母・五嶋節がわが子を幼児期から将来音楽家として大成させるため、その素質を伸ばそうとした教育のあり方を論じてみることにする。五嶋節は大学時代ヴァイオリンを専攻したが、結婚のためその志を果たすことができなかった。みどりは彼女の初めての子であった。そのため、長年いだいていた世界的なヴァイオリニストになる夢をわが子に託したのである。なお論文執筆にあたって援用した主な資料は、奥田明則著『母と神童-五嶋節物語』である。