著者
梅本 春一 石家 駿治 入江 淑郎 今井 富雄
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.64-70, 1970 (Released:2008-11-21)
参考文献数
11
被引用文献数
4 4

アミノ・カルボニル反応のモデル系としてglucose-β-alanine系を使って鉄イオンの褐変捉進作用につき検討した. (1) 褐変反応系に鉄イオンを添加したものとしないものとの褐変曲線を比較するためにグラフの両軸を対数尺としたところ,反癒のある期間(誘導期と終期を除いた中間)では両曲線はほぼ平行な二直線となった.これは鉄イオンの作用が触媒作用であることを示唆するものと考えられた. (2) 褐変反応の初期に鉄イオンを添加した場合よりも,より後期に添加した場合の方が添加直後における反応速度が大きくなった.その場合ほとんど誘導期間が消失することがわかった. (3) 反応系を沸騰状態で脱気してからヘッドスペース無しで50°Cで反応させた場合には鉄イオンの褐変促進効果はほとんどなく,鉄イオンの褐変促進には溶存酸素の存在が大きい影響を及ぼすことがわかった. (4) 鉄以外に銅にも顕著な褐変促進効果が認められた.キレート剤のEDTAにもまた褐変促進効果が認められ,鉄との共存では予想に反し,かえって促進効果が大きくなった. (5) 褐変反応系の中間生成物としてfructoseamineが著量生成しているのを認めた,その量はglucoseの消費量にほぼ匹敵するほどであった. (6) 添加した鉄イオン濃度と反応中間物濃度との関係をしらべたところ,鉄イオン濃度が増加するにつれてfructoseamineのレベルが低下し,逆にglucosoneのレベルが上昇した.また3-DGのレベルには変化はなかった.なおglucose消費量の増減はなかった. このことから鉄イオンの作用はfructoseamineが酸化的に分解してglucosoneに変わる反応を触媒するものと推察した. 終りに本研究に関し種々の御助言を賜った東京大学農学部加藤博通博士に厚く御礼申し上げます. 本研究の大要は昭和42年度日本醗酵工学会において発表ずみである.