著者
棚瀬 精三 棚瀬 康介
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.304-312, 2012-09-25 (Released:2015-03-19)
参考文献数
23

上顎永久中切歯の萌出位置の異常を主訴に来院し,矯正力を作用させても,全く歯の移動が認められなかった2 症例を経験した。そこで,2 症例とも骨性癒着歯と判断し,癒着部位を分離することを目的に歯を亜脱臼させ,直に牽引移動を行った。亜脱臼は歯が垂直方向に約1mm可動する程度に行った。1 例は1 回の亜脱臼のみで,もう1 例は2 回の亜脱臼を行った。2 例とも歯の移動量は亜脱臼時の可動量をわずかに超えたが,再癒着がみられた。萌出量の不足分はレジン全部被覆冠修復で補った。亜脱臼を2 回行った症例は,牽引治療後6 か月時に根尖性周囲組織炎を来し,根管治療を行うも歯根の外部吸収が進行し,2 年9 か月後には保存不可能のため抜歯に至った。亜脱臼を1 回のみ行った症例は,2 年8 か月経過時,歯根の骨置換性外部吸収がみられるものの疼痛などの炎症症状は認められなかった。骨性癒着歯に対する亜脱臼後の移動治療は,順調に行えるという報告もあるが,本症例のように亜脱臼させても十分な移動は期待できないこと,あるいは骨置換性外部吸収が進み,脱落の可能性もあることも考慮に入れてインフォームド・コンセントを行うことが重要であると思われた。さらに,2 例とも永久歯に直接的な外傷の既往はないが,先行乳歯の外傷や抜歯の既往があり,永久前歯の骨性癒着には,乳歯の外傷や抜歯という外力が永久歯胚の歯根および周囲組織を損傷し,誘因となることの可能性が示唆された。