著者
森 源三郎
出版者
長野大学
雑誌
長野大学紀要 (ISSN:02875438)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.279-291, 2011-03

介護保険法、障害者自立支援法、発達障害者支援法等が制定され、その制度・政策が国民に広く浸透していった2000年から2009年の10年間に、高齢者・障害者に対する医療・福祉・介護サービスは飛躍的に前進してきた。特に介護保険制度による介護サービスのメニューが多種多様化し、高齢者・障害者の個別のニーズに対応したオーダーメイドの内容が準備され、利用者の満足度は高まっていった。しかしながら、医療、福祉、介護サービスを受けるための移動アクセスは公共交通機関、営業タクシー等の利便面とコスト面やバリアフリー面での不充分さが苦痛となっていた。欧米では早くからSST(Special Transport Service)やデマンド交通システムなどが試行されてきたが、日本の道路交通法制は『白タク』防止のための規制水準が高く厳格であるがため、高齢者・障害者の道路運送は利用者サイドからは理想的なサービス体系とは言い難い状況であった。日本では古くから旅館の駅前での無料送迎バス・サービスに馴染んでいる日本人の生活様式を医療・福祉・介護サービスの領域で工面してきた知恵が道路交通法第80条2項の特例許可制を引き出しその適用に依存してきた。小泉内閣の構造改革政策により構造改革特別地区(「特区」)として福祉有償運送がピックアップされた。更に道路交通法改正が成立し、第78条第2項が福祉有償運送の法的基盤を付与した。全国各地で25年間にわたり高齢者・障害者が苦悶してきた福祉運送問題は大きな飛躍台を得ることができた。本稿は長野県小県郡の上田市を中心とする周辺の町村の自治体と医療・福祉・介護サービス諸施設との、行政と民間がパートナー・シップ(PPP: Public and Private Partnerships)を形成し、確立していくプロセスをフィールド・ワークした立場から研究し、実践したヒストリーと地域住民がともに自立と社会参加を目指す地域社会の形成への展望を考察したものである。