著者
森口 歩
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.9, pp.361, 2023-09-01 (Released:2023-09-01)

図書館システムは,ほぼ全ての業務をカバーする基幹システムであり,利用者との重要なタッチポイントでもあります。図書館を取り巻く状況が多様化・複雑化する中で,システムリプレイスは時代に合わせたアップデートはもちろん,従来システムにおける課題の解決や,実験的な機能の実現等,抜本的な改善ができる数少ない機会です。しかし実際には,システムリプレイス自体が図書館職員にとって非常に難易度の高い業務といえます。システム専任の職員がいない,前回の移行を経験した職員がいない,図書館として別システムへの移行経験が少ない等,手探りの状況にある図書館も多いのではないでしょうか。そこで本特集では,システムの課題に直面する図書館職員の皆様の道標とすべく,図書館システムの移行を主題としました。特に難しい,別ベンダー・別パッケージへの移行を実現した事例紹介を中心としています。まず,渡辺哲成氏(日本事務器株式会社)に,図書館システムベンダーの視点から,システムリプレイスにおいて影響が大きい仕様書とデータ移行を中心に、トラブルが起きやすいポイントを概説していただきました。考慮すべき点,トラブル回避方法,システム停止期間やコストを抑える工夫等を紹介していただいています。続いて,異なるベンダーへの移行を担当された図書館職員の方々に,移行に至った背景,仕様書作成や予算要求における検討,移行時の問題とその対処,業務の変化,今後の課題等,各館の経験をご紹介いただきました。上野友稔氏(電気通信大学)には,大学図書館での事例をご執筆いただきました。2022年3月,約30年間同じベンダーより提供されていたシステムから,ExLibrisの「Alma」へ移行した事例について,電子書籍・電子ジャーナルの管理と提供,検索インターフェイスのディスカバリーサービスへの集約,学外クラウドサーバの利用,図書館職員への研修に触れながら紹介していただきました。奥野吉宏氏(京都府立図書館)には,公立図書館での事例をご執筆いただきました。2016年に京セラ丸善システムインテグレーション(当時)のシステムへ移行し,広域横断検索に「カーリルUnitrad API」を導入した事例について,企画提案方式による選定,独自開発に近かったシステムの仕様書作成に係る苦労,運用中の環境変化に対応したシステム改修等に触れながら紹介していただきました。また,委員として携わった,日本図書館協会「図書館システムのデータ移行問題検討会報告書」の内容や今後の課題も概説していただいています。上岡真土氏(高知県立図書館)には,公立図書館における共同運営の事例をご執筆いただきました。高知県立図書館と高知市民図書館の合築に伴い,2015年に2館の図書館システムを富士通の「iLisfiera」に統合した事例について,設計や稼働までの経緯,両館のデータ移行・統合作業,調達に係る費用,稼働以降の変化に触れながら紹介していただきました。また,詳細なネットワーク概要図によって,図書館システムの関わる範囲の広さ,機器構成やネットワークの切り分けが,一目でわかるように示されています。藤崎美奈氏(みどりの図書館東京グリーンアーカイブス)には,専門図書館での事例をご執筆いただきました。2021年に独自開発システムから,ブレインテックの「情報館」に移行した事例として,旧システムの課題解決に向けた検討,新型コロナウイルス感染症流行の影響による予算確保の問題,画像データの保管,デジタルアーカイブやホームページとしてのOPAC活用,現場職員の作業負担に触れながら紹介していただきました。埼玉県高等学校図書館研究会図書館協力研究委員会の皆様には,学校図書館の事例をご紹介いただきました。2020年に県内高校図書館の横断検索システムを,独自開発のISBN目録から,カーリルとの協働による書誌情報検索へ移行した事例として,連携協定に至った経緯,加盟する学校図書館における作業の変化,小規模グループごとの機能開発,物流や費用に係る今後の課題に触れながら紹介していただきました。今後,システムに求められる機能や範囲はますます拡大し,その重要性が高まる中で,システムリプレイスはより良いサービスを提供するために有効な手段のひとつです。本特集がシステムリプレイスに対する不安を解消し,自館のシステムを発展させるうえでの一助となれば幸いです。(会誌担当編集委員:森口歩(主査),今満亨崇,小川ゆい,鈴木遼香)