著者
MORIGUCHI Mai 森口 舞
出版者
神奈川大学人文学研究所
雑誌
人文学研究所報 (ISSN:02877082)
巻号頁・発行日
no.54, pp.65-80, 2015-09

カストロがキューバ革命当初は圧倒的な国民の支持を得た理由のひとつは,ナショナリズムであると言われている。だが,世界中にある無数のナショナリズムの全てがカストロ政権の事例のように支持を得られるわけではなく,むしろそうでないものは数多い。また,カストロのナショナリズムが支持の柱のひとつであることは多くの研究者において一致しているものの,これを思想内在的に分析した研究は現在まであまりなされていない。本稿では,革命前後のフィデル・カストロのイデオロギーを,当初彼と協働したが後に決別した革命政権初代首相ホセ・ミロ・カルドナの思想と,革命前の共和国,政治原則,バティスタ政権,革命後,米国という5つのポイントで思想の比較を行う。この比較の結果を,リーア・グリーンフェルドの理論を援用して分析した結果,両者がルサンチマンという点に注目した際に国民へのアピールで大きく異なることを明らかにし,カストロの思想は国民に対し,劣等感を抱く身近な強国(米国)に対する自らの優越性を見出したという特徴があり,それが強みである可能性を示した。