著者
森山 哲美
出版者
The Japanese Society for Animal Psychology
雑誌
動物心理学年報 (ISSN:00035130)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.101-113, 1981

従来, 刻印づけにおける追従反応は, 離巣性の種 (non-altricial species) の新生児が, その親に対して示す愛着行動の1つとして解釈されてきた。さらに, LORENZzは, その初期の見解 (7) の中で, この刻印づけによる新生児の行動と一般の学習行動とを, 次の2点を基にして区別した。1), 刻印づけは, 不可逆性 (irreversibility) を有する, 2), 刻印づけには, 臨界期 (critical period) が存在する。<BR>LORENZ以降, この2点に関して様々な議論が展開され (1, 5, 6, 9, 10, 12, 13), 現在のところ, この過程については, 「個体のごく限られた時期に獲得形成され, 比較的永続性のある学習の一部である」と解釈されている (8) 。しかし, 追従反応が子の親に対する愛着行動の一種であるとするならば, 個体の, 後の成長過程で受ける様々な社会的刺激 (例えば, 仲間の個体) によって, 何らかの変容をこの反応は受けるものと思われるし, さらに愛着行動に影響する要因として, 親にあたいする刺激対象との接触回数を考えるのであれば, その回数の多少が, 愛着の強さの程度に影響し, 追従反応にも何らかの変化が生ずるものと思われる。もし, このような反応の変容が, 後の個体の成長過程で生ずるのであれぼ, LORENZの主張した不可逆性は, 成立しにくいものと思われる。さらに, 臨界期に関しては, それが過ぎてからも刻印づけの形成が可能であるという報告があり (3), その存在について明確な結論が出されていない。<BR>そこで, 本研究は, ニワトリのヒナの刻印づけの指標として, 刻印刺激への追従時間量ならびに追従出現頻度を用い, 約1ケ月間, 飼育条件 (単独・集団), 刺激呈示条件 (呈示回数) を変化させることによって追従反応に如何なる変化が生ずるかを調べ, さらに臨界期を過ぎた個体でも刻印づけ形成が可能であるか否か検討することを目的とした。