著者
森山 義礼
出版者
東大寺学園中・高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

<目的>スライムは,岩石の性質をうまく表しており,スライムの変形を観察することにより,地球内部における複雑な岩石流動を視覚的にわかりやすくする。透明なスライムの気泡の形状から歪みを求めることもでき,そのまわりの気泡を使って粒子の動き(particle path)も確認できる。このようにスライムは,岩石内の変形構造を定性的に理解するのに適しており,ここに教材としてのスライム実験を報告する。<研究成果>地学Iの内容で,「地層の変形により褶曲と断層が形成される」ことを学ぶが,同じ圧縮場であっても褶曲ができる場合と断層ができる場合とがあり,生徒は一瞬理解に戸惑う。特に,岩石は固体で硬いというイメージが強く,岩石がやわらかく曲がるということに慣れていない。同様に,「マントルは固体だが流動的に動く」ということにも馴染みが薄い。これらの岩石の挙動を理解する助けになる教材として,スライムを用いた。厳密にいうとスライムは岩石の性質と大きく異なるが,定性的に一部の性質を視覚的に理解するために役立つ。また,透明なスライム中の気泡を観察することで,マグマの粘性とガスの含有量の関係も視覚的に理解させることができる。さらに高校の範囲を若干逸脱するが,岩石の変形プロセスを理解するための基礎知識である純粋剪断(pure shear)と単純剪断(simple shear)の粒子の移動(particle path)も視覚的に理解させることもできる。透明なスライム中の気泡は,歪み量に差はあるものの,全体の歪みの形状をよく表しており,particle pathもきれいに観察できる。上記の実験以外にも,粘性の異なる物質をスライム中に埋めたり,挟んだりすることで,様々な変形構造が作り出せると思われる。