著者
渡辺 登 百瀬 香保利 森岡 恵
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.427-433, 1986-04-15

抄録 不登校を主訴とした性転換症と考えられる女子中学生の1症例を報告した。本症例は物覚えがついた頃から自分を男性であると思っており,兄や兄の友人達の遊びの中へ積極的に参加し,女の子に憧れを抱いた。女生徒と性的愛撫を交したが,男性として扱われていなかったと知ると憤慨し,また欲求を押さえ切れず女性に性的イタズラをしたこともあった。思春期を迎えると,生理に不快感をもち,乳房の膨らみを隠し,女性と性愛関係に及ぼうと考えた際に女性身体であることに強く苛立った。さらに父親の「女らしくしろ」との強要や男性化願望に対する同級生の蔑視に反撥し,不登校となり引きこもった。本症例の診断や病因,生活歴,臨床像について性別同一性とその基盤となる中核性別同一性から若干の考察を加えた。