著者
金田 重郎 井田 明男 森本 悠介
雑誌
ソフトウェアエンジニアリングシンポジウム2018論文集
巻号頁・発行日
vol.2018, pp.93-102, 2018-08-29

UML 静的モデル ・ クラス図に関するテキストは,数多く出版されており,海外の著名な作者によるテキストの翻訳も販売されている.しかし,これら多くのテキストでは,クラス図のシンタックスの説明はあるが,具体的に 「どうやって,クラス図を描くのか」 が意外に明示されていない.結果的に,市販テキストを用いただけでは,どの様にクラス図を描くのかを初学者が学ぶことは難しい.この問題点を解決するため,著者らは,クラス図が英語の認知構造を反映しており,それが,日本人初学者にクラス図を縁遠いものにしている一因であるとの仮説を示した.しかし,この既存ガイドラインをもってしても,「クラス図をどう描くのか」を具体的に示すガイドラインとしては不十分である.そこで,本稿では,クラス図の描き方のガイドラインを得ることを目的として,「クラス図とは何か」 を明らかにする.具体的には,1対多関連は,時間的前後関係を制約するものであり,結果的に,多対多関連を用いない通常のクラス図は,処理プロセス間の時間的制約を示すハッセ図であることを示す.即ち,クラス図は,人間の頭の中にある概念を取り出すツールというより,対象ビジネスを構成する処理プロセスの時間的制約関係 (材料 - 加工関係) を表現するツールである.クラス図を構成するクラスは,独立型と従属型に分かれるが,独立型では,他インスタンスとは無関係にインスタンスを生成できる.更に,従属型クラスには動作を表現するものが多く,クラス図を,中村善太郎の 「要のもの ・ こと」 モデルで理解できる.本稿では,以上の理解に基づくガイドラインを示し,そのガイドラインによって,実務家の間で知られるモデリング例題 「花束問題」 が分析できることを示す.