著者
森松 健介
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.82, pp.1-28, 2015

ジョン・クレア(1793-1864)とトマス・ハーディ(1840-1928)には明らかな共通性がある。両者とも社会派作家として社会悪の《真実》を暴いた。クレアに上位階級批判が多いと同じく,ハーディは初期小説から社会派的批判を濃厚に示し,中期,また特に後期小説では上位階級批判を主題とした。詩においてもハーディのギボン(Edward Gibbon, 1737-94)礼賛も社会悪の直視だ。《真実》を語れば文筆家は弾圧されるという感覚は両者に顕著である。それでも二人共,農村労働者の勤勉と優しさを描き,具体例としてはクレアの農耕馬,ハーディの馬車馬描写が酷似し,また荒れ地の植物ヘザーと針エニシダも二人の共通の愛を受けている。クレアは旧式のパストラルを批判したが,これはハーディが『緑の木陰』で実践した。その小説の最終章冒頭の緑の木の蔭とクレアの詩の類似は驚くべきだ。クレアの荒地変貌への嘆きもハーディに受け継がれた。最後に,クレアの「原野」と「恋と記憶」を読み,二人の郷土愛・恋愛観の類似を示した。