著者
田口 敦子 森松 薫
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.649-657, 2019-10-15 (Released:2019-11-09)
参考文献数
16

目的 人々が望む住み慣れた自宅を最期の場所に選択できるよう在宅医療を整備することは必要不可欠である。地域包括ケアシステムの構築の中でも,在宅医療の体制整備を目的とした福岡県在宅医療推進事業の評価に焦点を当て,事業開始後5年目に行った事業評価の見直しや評価指標の設定方法について報告することを目的とした。これにより,今後在宅医療や事業評価に取り組む自治体が中長期的な見通しを持つのに有益な資料になり得ることを目指した。方法 事業開始5年目に当たる平成26年に事業評価の見直しを行った。見直しでは,まず,事業評価の実態を把握することを目的に9か所の全保健所の事業担当者を対象に自記式質問紙調査を実施した。実施時期は平成26年7月であった。事業評価の実施状況,評価内容の妥当性について尋ねた。その結果を基に,在宅医療推進事業を経験した保健師7人と筆頭著者が中心となって事業評価の見直しを行った。とくに評価の改善プロセスがうまくいった事例である福岡県糸島保健福祉事務所では,医師,歯科医師,薬剤師,訪問看護師,市職員等で構成される在宅医療推進協議会で評価指標の目標値や測定方法を検討の上,評価を実施した。活動内容 事業開始5年目現在,全保健所で共通して活用されていた事業評価のための様式は,訪問看護事業所用のアンケートのみであった。活用されていない理由として,アンケートのボリュームの多さや評価の時間的確保の難しさ等が挙げられていた。これらの結果を受け,事業評価が①事業担当者やアンケートの回答者に負担がかかり過ぎずに実施できること,②在宅医療の推進状況や地域特性に応じて実施できること,③次期目標設定の方向性がより具体的に検討できることの3点に改善ポイントを置き検討を行った。改善後の事業評価方法は,地域の関係機関に保健所から目標値や測定方法を一方的に提示するのではなく,目標値や測定方法等を在宅医療推進協議会で話し合って決定した。このような方法をとることによって,関係機関が主体的に課題や目標を捉えられるようになった。結論 福岡県在宅医療推進事業の事業評価を事業開始5年目で見直すことにより,実効性や継続性の高い事業評価に改善することができた。在宅医療の推進は全国に共通する喫緊の課題であることから,本報告は,今後本事業に取り組む自治体が長期的な見通しを持つのに役立つと考えられる。