- 著者
-
森瀬 智子
- 出版者
- 奈良学園大学
- 雑誌
- 奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University
- 巻号頁・発行日
- vol.13, pp.105-116, 2020-12-21
本稿は、唱歌の始まりである明治期から現在までの学校音楽教育における、歌唱技能の発声と合唱についての変遷を辿り、学校教育で現在求められている児童・生徒の発声指導と合唱活動について考察したものである。呼吸については合唱活動が盛んであった時期に出版された品川三郎の『児童発声』における発声指導を『日本声楽発声学会関西支部学会誌』¹⁾(2015年度)に基づき妥当性を検討した。本研究によって明らかになったことは、音楽の授業時間削減と教育の転換よって音楽の技能習得重視から主体的に技能を活用することに重点が置かれるようになり、学校教育での音楽関連の行事削減も相まって、指導に時間を要する発声法等の技能に関わる内容や合唱についての記述の減少である。特筆すべきことは、中学校において3年間で60時間音楽の授業時数が減少した平成10年度改訂からは、日本の伝統音楽の発声と従来の歌唱の発声を一緒に扱い、学習指導要領では「曲種に応じた発声」と記載され、合唱に至っては、記載がなくなったことである。このような現状況により児童生徒の合唱の機会は減ったが、NHK主催の学校音楽コンクールによる魅力ある合唱曲の発信によって、急激な合唱離れは回避できている側面もあり、今の児童・生徒に合った曲を提供することが、今後の学校教育で合唱活動を推進していくことの一助になることも分かった。また、時数削減の中児童・生徒が技能を身に付けるには、医学的根拠に基づいた呼吸法・発声を教員が理解し指導することがより必要である。発声指導の内容に関しては、本稿で採り上げる品川(1955)は現在医学的根拠に基づき発表されている日本発声学会関西支部の歌の呼吸の考え方と同じ部分が多く、実践した際には効果が期待できる呼吸実践法であることが明らかになった。