著者
中島 栄之介
出版者
奈良学園大学人間教育学部
雑誌
人間教育 = Online Journal of Humanistic Education (ISSN:2433779X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.7, pp.211-219, 2018-09

特別支援学校における人権教育について、兵庫県立A特別支援学校での実践例をもとに検討した。特別支援学校における人権教育は在籍する生徒が差別を受けてきていると同時に差別をする側にもなるという特徴がある。しかし、これまでの特別支援学校の人権教育は性教育などの男女共生教育が中心であり障害者差別を取り上げることは少なかった。A特別支援学校では継続的に人権教育を行うことを目的とし、人権教育の実践を積み重ね障害者差別を題材として取り上げるまでに至った。生徒にとって障害者差別を取り上げることは生徒にとって過去自らが受けてきた差別と向き合うことであり、自身の障害と向き合うこと、さらに今後受けるであろう差別と向き合うこと、そして、自らの持つ差別性と向き合うことでもあった。また、人権教育を継続していくためには、組織やシステムを構築するとともに組織やシステムを動かしていく人材の育成も継続的に必要であると考えられた。
著者
矢野 正
出版者
奈良学園大学人間教育学部
雑誌
人間教育 = Online Journal of Humanistic Education (ISSN:2433779X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.5, pp.111-114, 2020-05

西日本私立小学校連合会学級経営部会において,長年にわたり大変お世話になった森本幸一先生が,この度ご退職されるにあたって,1つの区切りとしてこれまでの教育実践をご高著としてまとめられた。大阪教育大学教育学部の大先輩でもある森本幸一先生には,学級づくりや学校経営をはじめ,学級経営部会以外でも多くのご指導を受ける機会に,これまでに恵まれてきた。森本先生は,ご勤務の間の多くを児童の指導や教育・研究に没頭され,1988年度には兵庫教育大学大学院教育方法コースにて1年間,杉浦美朗教授より,「豊かな感性を育てるには」というテーマで研究指導を受けられた。また,教科の枠を越えた研究会「新視界クロスオーバー21」や「日韓・アジア教育文化センター」,「学校改造研究会」などの先生方と研究,研修,研鑽を日々重ねられてこられている。近年は高齢社会の中で,何かと老年期や晩年の生き方が話題とされているが,肩ひじを張らずに社会や家庭の中でできることをしていければと考えておられるご様子である。森本幸一先生の素晴らしい教師としての姿やまなざしを私たちは教育現場へと還元し,引き継いでいかなければならないだろう。それが後世に残された私たちの使命であり,このようにご高著としてまとめられた森本先生への恩返しになるのではないだろうか。
著者
松田 智子
出版者
奈良学園大学人間教育学部
雑誌
人間教育 = Online Journal of Humanistic Education (ISSN:2433779X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.7-15, 2020-01

明治以降、国民全体の道徳的価値の育成において、学校教育をコントロールする教育行政は、良い意味や悪い意味においても、大きな役割を果たしてきた。本稿では教育行政の中で、道徳教育=修身が義務教育成立期に、どのような政策のもとに推進されてきたかを歴史的に概観することとする。江戸時代の儒教主義的な道徳政策は、現象面においては、明治政府の欧化主義的な意向を受けて変化したが、その後「教育勅語」により、道徳教育=修身の基本的な中身が、文部行政により大きく方向転換される。明治維新後の教育行政は短期間のうちに、現象面では180度「保守」から「開明」に、またはその反対に揺れ動いていくように見える。しかし本稿では、道徳教育=修身の基盤となる思想には大きな変化がないことも明らかにする。天皇を中心とした復古主義と儒教倫理は、表面上の教育政策は変われども、内包され継続されているのである。
著者
中島 栄之介 松﨑 泰
出版者
奈良学園大学人間教育学部
雑誌
人間教育 = Online Journal of Humanistic Education (ISSN:2433779X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.17-26, 2019-01

肢体不自由者教育における対象の変遷と教育的対応上の課題を「重度・重複障害」という言葉に着目して定義とその変遷、学習指導要領上の位置づけを中心に検討した。いわゆる「重度・重複障害」を有する子どもたちの教育は、戦後の福祉制度や特別支援教育の開始時期よりすでに問題になっており制度改革や学習指導要領の改訂ごとに課題とされてきた。特に就学猶予がなくなった養護学校義務化、医療的ケアが話題となっていた特別支援教育の開始時期に課題が顕著になっていた。また、「発達障害」の概念が広がった現行学習指導要領や次期学習指導要領以降には「発達障害」と併せ有する障害、「発達障害」を視野に入れた学びの連続性などが今後「重度・重複障害」を考える上でポイントになると考えられた。
著者
岡本 恵太
出版者
奈良学園大学人間教育学部
雑誌
人間教育 = Online Journal of Humanistic Education (ISSN:2433779X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.45-51, 2020-02

本稿の目的は、教育社会学的なものの見方・考え方を明らかにすることにある。そのための手がかりとして「置き勉」問題を取り上げる。「置き勉」とは、教科書等の学習用具を教室に置いたままにしておくことであり、身体的な負担軽減のために容認する動きが広がりつつある。この問題について以下の二つの見方・考え方を適用する。第一が、教育事象における「あたりまえ」をとらえ直す「価値自由」であり、これにより従来の「置き勉」禁止が価値判断を暗黙の前提とすることが明らかになる。第二が「モデル化」を通して事象の仕組みを探求する「理念型」である。「置き勉」問題に「規範モデル」「解釈モデル」という二つのモデルを適用し、この問題の解決に向けては、規則の強化よりも児童・生徒による「規則についての解釈」を生かすことが有効だと示される。
著者
森瀬 智子
出版者
奈良学園大学人間教育学部
雑誌
人間教育 = Online Journal of Humanistic Education (ISSN:2433779X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.17-26, 2020-01

学習指導要領の移行措置の期間を終える令和2年には小学校で、1年遅れて令和3年には中学校で新学習指導要領が全面実施となる。本論文では、幼稚園・小学校・中学校の3つの学習指導要領の総則から見える連続性について、新指導要領の方向性と汎用的能力について現行指導要領との比較から論じる。その上で、小学校中学校別の新学習指導要領音楽の教科目標の整理、3つの柱別の学年目標項目による学年別の整理、領域の観点別による小学校と中学校の内容の整理を通して、小学校と中学校における連携の必要性と学習内容の連続性について、発達段階に合わせた音楽の単元において、音楽づくり(創作活動)題材「カノン」の指導内容から提案した。
著者
矢野 正
出版者
奈良学園大学人間教育学部
雑誌
人間教育 = Online Journal of Humanistic Education (ISSN:2433779X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.5, pp.105-109, 2020-05

本書は,同志社女子大学大学院生活科学研究科生活デザイン専攻に在籍した,古性摩里乃さんが提出した修士論文を,加筆・改稿したものである。古性摩里乃さんは,同志社女子大学現代社会学部社会システム学科に学び,天野太郎教授の歴史地理学ゼミで「姉妹都市」に関する卒業論文に,熱心に取り組んだ。その際,「姉妹都市」の観点から,姫路市立動物園も取り上げた。この学部時代の動物園に対する着眼点をさらに深化させるために,特別推薦入学生として同大学院生活科学研究科生活デザイン専攻に進学され,彼女は,動物園の魅力高揚の諸問題について,諸井克英教授のもとで社会心理学的観点から格闘・奮闘し,この度,素晴らしい修士論文として世に送り出すことになった。本書は,大学院での2年間の勉学の取り組みを細切れの論文のままではなく,加筆・改稿し「ひとまとまりのかたち」にされたものである。
著者
松田 智子
出版者
奈良学園大学人間教育学部
雑誌
人間教育 = Online Journal of Humanistic Education (ISSN:2433779X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.5, pp.149-156, 2018-07

学校園では道徳教育の生命尊重の項目の目標達成のために、絵本を教材として活用する機会もあるが、死をテーマとした絵本はほとんど取り上げられることはない。これは日本の無宗教な教育背景や、子どもに死は無縁であるという教育観によるところが大きい。本来、生と死は、表裏一体であり、子どもの日常生活の中に死が見えなくなっている現代社会だからこそ、死を見つめた生命尊重の教育が必要である。死を考えることは、つまり生を考えることであり、道徳の生命尊重の教育の目標達成に結び付く。本稿は、谷川俊太郎の絵本「死んでくれた」を教材として、子どもへの読み聞かせによる保育と低学年に授業を行った実践報告の分析である。実践中の子どもの反応や授業後の振り返りや感想から、道徳の生命尊重の教材として、「死」を扱った絵本の効果は高いと考えられる。