著者
森田 都紀
出版者
京都造形芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

昨年度までの史料調査をふまえ、今年度は、主に一噌流宗家伝来の史料から重要と思われるものの解析を進めた。具体的には、『一噌流笛秘伝書』(早稲田大学演劇博物館蔵)、『矢野一宇聞書』(早稲田大学図書館蔵)、『笛の事』(法政大学鴻山文庫蔵)、『一噌流笛唱歌付』(早稲田大学演劇博物館蔵)、『貞享三年符』(早稲田大学演劇博物館蔵)、『順勝院噌善手記』(早稲田大学演劇博物館蔵)、『能学(ママ)秘伝書』(早稲田大学中央図書館蔵)、『寛政三年平政香笛唱歌』(法政大学鴻山文庫蔵)などをはじめとする、初世から八世までの代々の宗家の影響下にて成立した諸史料である。役者個人の忘備録として記されたものと、子孫や弟子に伝承するために記されたものとがあり、史料により性格は異なっている。またその内容も、由緒や芸談を記すものから、唱歌付や頭付等の演奏を記した楽譜の類まで幅広い。そこで、研究対象史料の性格を明らかにするために、史料の基本事項のデータベース入力を進めた。また、それと平行して、由緒や芸談等に記された記事の内容と、唱歌付や頭付を読み解くことで明らかになった演奏実態とを照合し、両者の記述を相互補完する形で演奏技法の具体相を総合的に検証しようとした。以上により、流儀としての演奏技法が成立する道筋の一端を窺えたが、一方で、史料数に制約があることと、伝書によっては記述が断片的であることなどによって、歴史的変化を体系的に考察できず、まとまった成果につながらなかった。