著者
杵渕 政彦 植松 遼平 谷野 圭持
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2014

<p>1. はじめに</p><p>Psiguadial B(1)は、2010年Shaoらによってフトモモ科の常緑灌木Psidium guajava L.から単離・構造決定されたメロテルペノイドである<sup>1)</sup>。1は、セスキテルペンに相当するトリシクロ[6.3.1.0<sup>2,5</sup>]ドデカン骨格および2つの芳香環を合わせ持つハイブリッド型天然物であり、ヒト肝癌細胞に対する抗腫瘍活性(IC50 = 46 nM in HepG2 cells)や増殖抑制作用(IC50 = 25 μM in HepG2/ADM cells)を有する。今回我々は、アセチレンジコバルト錯体の二重環化反応を基軸とする1の全合成を達成したのでここに報告する。</p><p>2. 多環性骨格構築法の設計および予備的検討</p><p>1の逆合成解析を以下に示す。7員環に対してトランスに縮環したシクロブタン環は、中間体2の無水マレイン酸部位を足掛かりに形成可能と考え、2のベンゾピラン環は、2つの脱離基を有するビシクロ化合物3と置換フェノールを連結して構築することとした。3の無水マレイン酸部位は、環状アセチレンジコバルト錯体4の脱錯体化反応によって導入することとし、4のビシクロ[4.3.1]デカン骨格を、中間体5を経由する二重環化反応で鎖状コバルト錯体6から一挙に構築する計画である。</p><p>最初に、鎖状コバルト錯体6の二重環化反応について、中間体5のモデル基質7を用いた予備的検討を行った(次頁表)。まず、ルイス酸として二塩化エチルアルミニウムを作用させたところ、7員環形成に伴い橋頭位にエチル基が導入された9が主に生成した。そこで、他の置換基を有するアルミニウム試薬を種々検討した結果、二塩化(2,4-ジクロロフェノキシ)アルミニウムを用いた場合に、橋頭位に塩素を有する環化体8が良好な収率で得られることを見出した。</p><p>3. 二重環化反応によるビシクロ[4.3.1]デカン骨格の立体選択的構築</p><p>上記の予備的知見を受けて、全合成の鍵工程となる二重環化反応の基質6の合成に着手した。δ−ヘキサノラクトンとベンズアルデヒドをアルドール縮合させた後、接触水素化条件で二重結合を還元した。得られたラクトン10をワインレブアミドの形で開環した後、生じたアルコールをケトン11へと酸化した。メチルプロバルギルエーテルから調製したアセチリドを11と反応させた後、ワンポットでシリル化してTMSエーテル12を合成した。12にメチルリチウムを作用させて得たケトン13を、エノールトリフラート化とTMS基の除去を経てアルコール14に変換した。シリルメチルGrignard試薬とのクロスカップリング反応でアリルシランとし、酢酸エステル15を経てアセチレンジコバルト錯体6を合成した。このものに、先に見出したルイス酸をone-potで作用させた結果、望みとする二重環化体4が一挙に得られた。</p><p>二重環化体4は単一の立体異性体として得られ、橋頭位四級炭素とベンジル基の相対配置は天然物1に対応することが判明した。この立体化学は6員環形成の際に決定されるが、ベンジル基がエカトリアル位にあるイス型遷移状態モデルを想定すると、メチル基よりもはるかに嵩高いコバルト錯体がアキシアルに配向することになる。そこで、この遷移状態モデルを計算化学的<sup>2) </sup></p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>