著者
榊 惠子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.24-33, 2004-05-31

この研究の目的は、アルコール専門病棟での患者と看護師の関係及び看護師の体験の特徴を考察することである。7ヶ月にわたる民間精神病院のアルコール専門病棟のグループワークを中心としたAlcoholism Rehabilitation Programでの参加観察および看護師へのグループインタビューで得たデータを質的に分析した。24時間、患者とともに過ごす看護師は、患者の人間物語を目の当たりにすることで、自分自身との対面を迫られていた。それにより、両者の心理的壁は紙一重と言ってよいほど薄くなっていた。さらには「自分1人では断酒できない」患者の無力感を前にして、看護師自身も無力感に陥っていた。看護師はそうした感情を回避するために、患者と距離を取ろうとしたり、「持ちつ持たれつ」の関係を作り出していた。しかし、病棟生活では患者の悲惨な死の話題ももたらされるので、両者の傷つきは非常に深かった。両者は、そうした患者の死を悼む者同士として、夜間に患者の死を知らせあうなど、互いにつながりを作ることで「喪の作業」を行っていた。