著者
田中 浩二
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.33-42, 2011
参考文献数
16

本研究は,精神科病院に長期入院を余儀なくされた患者が体験している生活世界を明らかにすることを目的とした質的記述的研究である.研究参加者は,精神科病院に10年以上入院している患者12名であり,参加観察と半構造的面接によりデータを収集し,質的帰納的に分析した.その結果,長期入院患者は【失ってしまったものが多く自らの存在が危うくなるような体験をしている】が,【入院前の自分らしい体験に支えられた生活】や【入院生活のなかでみつけた小さな幸せ】【病棟内から社会とのつながりを見いだそうとする工夫】【生きていくうえでの夢や希望】を拠り所に生活していることが明らかになった.長期入院患者の看護では,喪失体験に対する共感的理解とともに,その入らしい生活を送ることができるような場や人とのつながりを探求していくことが重要である.
著者
小宮(大屋) 浩美 鈴木 啓子 石野(横井) 麗子 石村 佳代子 金城 祥教
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.21-31, 2005-05
被引用文献数
7

本研究は、精神科看護者が体験している患者による暴力的行為の種類や影響と看護者の対処について詳細に説明する質的記述的研究である。先行研究から暴力を看護者に身体的・心理的影響を与える患者による身体的・言語的・性的な行為と定義した。A精神科病院の看護師18名を対象に、患者による暴力の体験についての半構造的面接を行い、その結果を暴力の定義に基づいて分類した。対象者は、「拳骨で殴る、平手で殴る」等の身体的暴力、「脅迫、誹謗・中傷」等の言語的暴力、「抱きつく、キスしようとする」等の性的暴力を受けていた。暴力により身体的傷害を負っても、周囲にはあまり大げさに振る舞わない傾向があった。また、対象者は「患者への恐怖や怒り、ケアへの自信喪失、自己嫌悪」等の心理的影響も受けていた。これらに対し、直後は暴力被害の事実を考えないようにしたり、暴力を振るった患者に共感的に関わらないなどの回避的な対処を行っていた。暴力被害看護師へのサポートとして、感情を表出させるデイブリーフイングが有効だと言われている。しかし、今回の結果では、あえて暴力を受けた看護者の感情にふれずに見守るという周囲のサポートが行われていることが明らかになった。現状では、暴力被害を乗り越えることが被害を受けた看護者自身に任されており、教育と支援のためのシステムを検討する必要性が示唆された。
著者
榊 惠子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.24-33, 2004-05-31

この研究の目的は、アルコール専門病棟での患者と看護師の関係及び看護師の体験の特徴を考察することである。7ヶ月にわたる民間精神病院のアルコール専門病棟のグループワークを中心としたAlcoholism Rehabilitation Programでの参加観察および看護師へのグループインタビューで得たデータを質的に分析した。24時間、患者とともに過ごす看護師は、患者の人間物語を目の当たりにすることで、自分自身との対面を迫られていた。それにより、両者の心理的壁は紙一重と言ってよいほど薄くなっていた。さらには「自分1人では断酒できない」患者の無力感を前にして、看護師自身も無力感に陥っていた。看護師はそうした感情を回避するために、患者と距離を取ろうとしたり、「持ちつ持たれつ」の関係を作り出していた。しかし、病棟生活では患者の悲惨な死の話題ももたらされるので、両者の傷つきは非常に深かった。両者は、そうした患者の死を悼む者同士として、夜間に患者の死を知らせあうなど、互いにつながりを作ることで「喪の作業」を行っていた。
著者
寳田 穂
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.10-19, 2009-05-31 (Released:2017-07-01)
参考文献数
27

【目的】薬物依存症者への看護の実践経験を有する看護師にインタビューを行い、看護の体験を描き出し、薬物依存症者への看護の意味を明らかにする。【方法】半構造化インタビューによる質的研究。インタビュー期間:2003年7月〜9月。参加者:12名。質問:(1)看護に関連する印象的な出来事、(2)その出来事への思いなど。インタビュー総時間:700分。【結果及び考察】看護師と薬物依存症者の感情には「無意識の対称性」がみられた。看護師は、薬物依存症者に「巻き込まれない」「負けない」ように看護を継続するも、薬物をやめさせることは困難だった。看護の限界や無力に気づいた看護師は、葛藤しながらも、患者との対話を大事したコラボレイティヴな関係を築いていった。看護の限界や無力に気づくことは、看護の質の変化へのターニングとなっていた。また、薬物依存症者への看護には、患者とのコラボレイティヴな関係を通して、患者と看護師の相互成長がもたらされるという意味があると考えられた。
著者
柴田 真紀
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.23-32, 2015

【目的】精神科病棟でのフィールドワークを通して,看護師が患者と関わる中でその語りを聴こうとするとき,どのような体験をするのかを明らかにし,精神科入院治療における看護師-患者関係の治療的意味とその難しさについて考察する.【方法】参加観察法を用いた実践研究.一病棟(精神科亜急性期)にて1年10ヶ月の間,毎週1回,計84回参加観察を行い,6名の患者との関わりを記録し分析した.【結果および考察】患者と看護師の関わりは他職種と比べて,時間,場所,内容の枠組みが曖昧で,患者の語りは言葉だけでなく身体接触からも生じていた.妄想や幻聴により断片化し混沌とした患者の語りを理解する手がかりとして間主観的接触が重要な役割を果たすことが明らかになった.しかし,その体験は看護師の不安を刺激し,防衛としてのルチーン化した関わりを生み出すこともあった.
著者
藤野 成美 脇崎 裕子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.105-115, 2010
参考文献数
28

本研究の目的は,高齢期の長期入院統合失調症患者がとらえる老いの認識と自己の将来像について明らかにし,看護実践への示唆を得ることである.研究対象者は,精神科病院に10年以上入院中である65歳以上の統合失調症患者7名であり,半構造化インタビューを実施し,質的帰納的分析を行った.その結果,老いの認識は「加齢に伴う心身能力の衰え」「精神科病院で老いていくしかない現状」「満たされることのない欲求の諦め」「死に近づく過程」であり,自己の将来像は「期待が心の糧」「成り行きに身を任せる」「将来像を抱くことを断念」であった.長期入院生活で老いを実感した対象者が語った現実は,社会復帰は絶望的であるという心理的危機状況であったが,現状生活に折り合いをつけて,心的バランスを保っている心情が明らかとなった.退院の見通しがつかない現状であるが,その人がその人らしく生きていくために,少しでも自己実現のための欲求を満たすことができるよう支援する必要がある.
著者
今泉 亜子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.30-39, 2014

本研究の目的は,精神科病院に長期入院している患者たちとのゲームを通してのかかわりから,その場にどのような相互交流が生み出されるのかを明らかにするとともに,その意味を考察することである.研究者はオセロで遊ぶことをすすめる目的としていたわけではなく,ただ患者たちの求めに応じてオセロを行っていた.だが患者たちが次々と参加してきたため,オセロは途切れることなく,フィールドワーク最終回まで行われた.他者との繋がりを恐れながらも求めていた患者にとって,オセロは人に近づくきっかけとなり,オセロの場はたんなる遊びの場ではなく,相互交流の場となっていた.また「葛藤が生じれば逃げる」「相手を容赦なく叩きのめす」などというオセロのやり方と患者の"問題行動"には共通するパターンが見られ,患者のこれまでの生きてきた世界を映し出していた.患者は遊びの中で自分を表現し,人とのかかわりを体験することにより,繋がりを回復し成長することができる.それをサポートするためには,看護師には患者と遊べるようなゆとりが必要であり,病棟全体も,そうしたゆとりを作っていく工夫が求められる.
著者
岡本 典子 田中 有紀
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.91-100, 2014-06-20

精神科病棟に1年以上入院している統合失調症患者の社会行動を,病棟看護師がSocial Behaviour Schedule (SBS)日本語版を用いて評価した場合の妥当性について検討した.尺度は<対人交流における奇妙さ><過剰で不適切な行動><低下したための不適切な行動><反社会的な行動><対人交流における自己顕示><不安や気分の落ち込み>の6因子構造であった.Cronbach a係数0.88, 2名の看護師間の信頼性係数の範囲は-0.09≦k≦0.78, 1ヵ月の期間をおいて行った再検査の信頼性係数の範囲は0.43≦r≦0.83であった.Global Assessment of Functioning(GAF)尺度との相関係数はr=-0.65であり,本尺度が測定する社会的に容認されない行動が多いほど,全体的機能が悪い傾向にあることが示された.SBS得点は,52.7%の患者に【社会との適切な接触】の問題が見られ,長期在院者の状況を反映していた.以上の結果から,構造的側面,一般化可能性の側面,外的側面,結果的側面からの証拠が集められ,SBS日本語版を病棟看護師が1年以上入院している統合失調症患者の社会行動評価に使用した場合の妥当性を確認することができた.
著者
五十嵐 透子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-13, 2000
参考文献数
35

本稿は、看護教育におけるタッチング教育についての研究報告である。タッチングは、ナースとクライエント間の非言語的コミュニケーションにおいて極めて重要な位置を占め、看護における対人関係の質を決定する一要因であるといわれている。しかし、タッチング教育に関する報告はほとんどみられない。今回、看護教育の1つに非言語的コミュニケーション技術としてタッチングを加え、4年制教育の3年次の成人・高齢者学内演習の1つとして行なった。対象は、本演習ならびに成人・母性臨地実習受講者の66名(女性65名、男性1名)であった。 タッチング演習は、(1)講義、(2)ロールプレイ、(3)ロールプレイのビデオを通したディスカッションと再体験学習の3つの段階で構成した。教育効果は演習終了後に提出したレポートの内容および演習後に行なわれた臨地実習におけるタッチングの実施状況により評価した。タッチングは看護介入の1つである気づきやタッチングの提供者と受け手の間における感じ方の違いなど9つの意識化か得られた。また、実習中に95%の対象は思いやりや励ましを含んだ情動的タッチングを行ない、94%の対象がタッチング演習を肯定的に評価していた。タッチング教育において、タッチングに関する学生の個別的嗜好とタッチングの実施との関連性におけるさらなる研究の必要性と既存のタッチング理論の追加要素および多面的側面からのタッチング教育の研究の必要性などが示唆された。
著者
寳田 穂 武井 麻子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.32-41, 2005 (Released:2017-07-01)
参考文献数
13
被引用文献数
3

背景:各国で薬物乱用・依存に関する問題は深刻であるが、日本も例外ではない。しかし日本において、薬物依存症者への看護の意義や限界は明らかになっていない。目的:薬物依存症で精神科病院へ1回の入院を体験した人の語りを通して、入院体験の様相を描き出し、入院中の看護の意義・限界を明らかにする。方法:半構造化インタビューによる帰納的研究。5名の語りを再構成し分析した。結果及び考察:入院前、対象者は恐怖と孤立無援感の中で切羽詰まった状況にあった。入院によって、精神症状や身体状態は改善したが、処方薬や他の患者・スタッフとの関係で苦痛を体験していた。しかし、怒りや苦痛を最初から表現しなかったり、「仕方ない」と諦めた対象者が多く、孤立無援感は癒されていなかった。薬物依存症での初めての入院においては、「安全感」の回復と、「人間的つながり」の提供が必要であろう。
著者
梅崎 みどり 富岡 美佳 國方 弘子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.39-48, 2013-06-10 (Released:2017-07-01)
参考文献数
15

本研究は,妊娠期および産後における産後うつ病発症予防のための看護介入の実態を明らかにすることを目的とした.方法は,一県内の産科を有する91施設に無記名自記式質問紙調査を行った.調査内容は,対象施設の概要,産後うつ病発症の把握の実態,妊娠期からの産後うつ病発症予防に関する取り組み,産褥期の産後うつ病発症予防に関する取り組みとした.結果,産後うつ病発症予防のための看護介入は積極的に行われているとはいえない施設の状況が明らかになった.しかし他方で産後うつ病予防のために妊娠中からの取り組みをしている施設の取り組み内容は積極的であり,産後うつ病発症予防のための退院指導を実施している施設の指導内容もきめ細かいものであった.つまり,産後うつ病発症予防のための看護介入は施設間格差があった.今後,産後うつ病発症予防のための看護介入を施設間に広く波及させる必要があるとともに,産後うつ病発症予防のための妊娠期および産後の支援システムの構築による介入が重要である.
著者
宇佐美 しおり 中山 洋子 野末 聖香 藤井 美香 大井 美樹
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.70-80, 2014

本研究は,退院後早期の再入院予防のための急性期治療病棟および退院後のケアを明らかにすることを目的とした.入院中,退院後の看護ケアを疾病ごとに抽出し,質的な内容分析を行った.ケア対象者である患者の平均年齢は47.4歳,発病からの期間は11.5年であった.ケア提供者である看護師は24名で平均年齢41.1歳,看護師の平均経験年数14.5年,精神科看護の平均経験年数は,10.2年であった.分析の結果,統合失調症,気分障害患者双方に抽出された看護ケアは,<退院後の安定した生活を意識しリソースを活性化する><地域生活を維持するために必要な在宅での安全・安心なケアを提供する>で,統合失調症患者には症状管理やセルフケアの獲得支援に関する支援が,気分障害患者には,うつ状態に関する自己理解を促進する支援が行われていた.本研究結果から,退院後早期の再入院予防のためには,急性期入院治療中から退院後まで継続的な症状の自己管理支援,危機時の速やかな介入,多職種による有機的連携強化が重要であることが示唆された.また,退院後3か月未満で再入院した患者と再入院しなかった患者の入院中の看護ケアの違いは見いだせなかった.すなわち,患者のこれまでの入院の仕方・地域での生活の仕方,患者の疾患,再入院の理由などを理解した個別的な看護ケアが十分に展開されているとはいえず,この区別が課題として残された.
著者
宮島 直子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.116-127, 2010-06-30 (Released:2017-07-01)
参考文献数
25

本研究の目的は,統合失調症患者の手記から,発症前エピソードを生活の視点で抽出し,その概要を記述することである.手記を研究対象とすることは,研究に関わるプライバシーの問題を解決するとともに当事者に詳細に尋ねることによる過重なストレスを与えない方法として,有効と考えた.研究の手順および分析方法は,まず手記から発症前生活エピソードが記述されている文章をすべて抜き出し,一文を一データとした.次にデータは,意味内容から抽象度を上げコード化し,それぞれのコードは類似性を基にカテゴリー化した.そして得られたカテゴリーの関連性を検討し,カテゴリーについての説明可能な軸を抽出した.結果として,9冊の手記から3,401のデータを得た.データから138の二次コードを抽出し,それらは13のカテゴリーに分類できた.そして,それらのカテゴリーは6つの軸で説明することができた.軸は,【対人関係をめぐる苦痛】【認識の歪み】【的外れな対処】【状況把握の困難】【日常生活上の障壁】【仮面の生活】であった.【状況把握の困難】は,人間の言動の根幹に影響を与え,他のすべての軸に関連する中核的存在とみなすことができた.それぞれの軸について,過去の文献と比較検討し,その妥当性を確認した.