著者
中川 栄利子 樋口 倫代
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.447-458, 2022-06-15 (Released:2022-06-15)
参考文献数
33

目的 女性就労者を対象に,代表サンプリングによる全国規模の社会調査のデータを使用し,就労形態別に労働要因および社会経済的要因と受診抑制との関連を分析することを目的とした。方法 日本版総合的社会調査2010年調査(JGSS-2010)のデータセット2,496人分より,20歳以上65歳未満の女性就労者639人分を抽出して行った二次データ分析である。まず,受診抑制の有無,労働要因(職種,就労年数,労働時間,会社の規模)および社会経済要因(年齢,婚姻状況,15歳以下の子どもの数,学歴,等価可処分所得)を就労形態別にクロス集計した。さらに,受診抑制の有無を目的変数,労働要因と社会経済要因を説明変数としたロジスティック回帰分析を就労形態で層化して行なった。結果 全対象者中,受診抑制ありと答えた者は227人(35.5%)であった。受診抑制の有無と就労形態の間に有意な関連は認めなかった。調べた労働要因および社会経済要因は就労形態と強い関連を認めた。正規雇用などの女性に限定すると,就労年数2年未満の者に対する2年以上5年未満,5年以上10年未満および10年以上の者の受診抑制のオッズ比は,それぞれ3.91(95%信頼区間(CI): 1.31-11.7),2.86(95%CI: 0.97-8.44),1.99(95%CI: 0.70-5.66)であった。非正規雇用などの女性の分析では,60代に対する50代,40代,30代,20代の受診抑制の調整オッズ比は,それぞれ2.26(95%CI: 0.99-5.16),4.09(95%CI: 1.70-9.82),5.03(95%CI: 1.90-13.30),5.32(95%CI: 1.87-15.10)と若い年齢群ほど受診抑制のオッズ比が大きくなる傾向を認めた。その他の労働要因,社会経済要因と受診抑制の有無には有意な関連を認めなかった。結論 3割以上の人が過去1年間に医療を受けることを控えた経験を有していた。就労形態と受診抑制の間には有意な関連を認めなかったが,正規雇用などの女性では中堅と考えられる群,非正規雇用などの女性では妊娠・出産や子育ての世代で受診抑制のオッズ比が有意に大きくなっていた。これは,就労形態による女性の健康問題の違いを示唆していると考えられる。個人のライフステージや家族関係とともに,労働状況や環境を考慮した健康支援が必要であろう。