著者
中西 康友 樋口 潤哉 本田 直樹 小村 直之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.156, no.6, pp.370-381, 2021 (Released:2021-11-01)
参考文献数
46
被引用文献数
6

アナモレリン塩酸塩(以下,アナモレリン)は,成長ホルモン放出促進因子受容体タイプ1a(GHS-R1a)の内因性リガンドであるグレリンと同様の薬理作用を有する経口投与可能な低分子薬剤であり,食欲不振を伴う体重減少を愁訴とするがん悪液質の治療薬として本邦で初めて承認された.アナモレリンは,培養ラット下垂体細胞からの成長ホルモン(GH)の分泌を促進し,ラット,ブタ及びヒトへの経口投与によって血漿中GH濃度を増加させた.また,ラットにアナモレリンを1日1回6日間反復経口投与したとき,初回投与後から摂餌量の増加を伴う体重増加が認められた.アナモレリンはGHS-R1aに対する選択的な作動薬であり,GHS-R1aを介して下垂体からのGH分泌を促進するとともに摂餌量を増加させ,その結果として体重増加作用を示すと考えられた.非小細胞肺がんに伴うがん悪液質患者を対象とした2つの国内第Ⅱ相試験において,除脂肪体重(LBM)及び体重の減少並びに食欲不振を改善することが確認された.また,消化器がんである大腸がん,胃がん及び膵がんを対象とした国内第Ⅲ相試験においても,LBM及び体重の維持・増加並びに食欲不振の改善が認められ,大腸がん,胃がん及び膵がんでのがん悪液質に対する有効性が確認された.なお,非小細胞肺がんに伴うがん悪液質患者を対象とした海外第Ⅲ相試験で認められた有効性は,2つの国内第Ⅱ相試験の結果と一貫するものであった.安全性については,肝機能パラメータの異常,心機能及び血糖上昇に関連した副作用が認められたものの,重大なリスクと考えられる事象は認められなかった.以上,アナモレリンは,これまで有効な治療法がなかったがん悪液質の治療薬として,医療現場に新たな一手をもたらすことが期待される.