- 著者
-
樋口 雅夫
- 出版者
- 全国社会科教育学会
- 雑誌
- 社会科研究 (ISSN:0289856X)
- 巻号頁・発行日
- vol.78, pp.25-36, 2013-03-31 (Released:2017-07-01)
本研究は,公民科「政治・経済」の学習において,現代社会の諸課題の根底にある価値観の対立を調停していく能力を育成する単元展開を効果的なものにするためには,その前提として公民科「倫理」において価値概念そのものを対象化し,その含意を批判的に吟味することによって受容させる「批判的価値受容学習」が有効であると考え,その単元開発を試みるものである。開発した単元「"天賦人権"は外来思想か?」では,現代民主主義社会において普遍的価値と見なされ,所与のものとして捉えられている自由,平等などの価値概念と初めて対峙し,受容した際の明治期日本に焦点を当て,誰がどのような方法でそれらの価値概念を日本社会に受容可能な形にしていったかを批判的に探求させる学習活動を通して,それらの含意を理解させていく単元展開を構想している。本研究の成果としては,現行教育課程上,共に履修することが規定されている,「倫理」及び「政治・経済」の関連を図るという観点から「倫理」学習の意義を明らかにすることができたことが挙げられる。「倫理」において,現代社会の諸課題を探求するための基盤となる様々な価値概念の含意を批判的に受容させておくことによって,「政治・経済」で,価値観の重なる部分,異なる部分の双方を併せもつ他者との間で暫定的合意案を形成・提示し続けていく「多元的価値調停学習」を行う基盤が整うのである。