著者
横内 由紀恵 (森 由紀恵)
出版者
日本女子大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は王家の御産・御悩の御祈を分析することで日本中世成立期の宗教の政治的機能の特色と変遷を明らかにすることにある。最終年度である平成24年度は2年目までのデータベース作成・史料調査を継続し(下記1)、その成果を研究報告や論文の形で発表し(下記2)、本研究課題の解明をめざした。1.データベース作成・史料調査:本研究課題の中心史料『覚禅鈔』の年号・書名索引は、前年度に入力作業が終了したため、本年度は校正作業を行い、精度を高めた。その過程で不明確な箇所は東京大学史料編纂所の写真帳・高野山大学図書館の原本などで追加調査を行い『大正新脩大蔵経』の底本である勧修寺本よりも情報量が多い諸本を確認した。これにより仏教史・政治史・外交史など多分野から注目されている『覚禅鈔』の情報を補填することができた。また御悩の御祈の対象ともなる内侍所神鏡について聖教類・日記史料の蒐集・調査を行った。2.調査結果の考察・発表:『覚禅鈔』データベースをもとに考察を進めた結果、『覚禅鈔』には真言宗・天台宗・大陸・神道関係の教義が反映されていること、その情報収集の方法には独特の傾向があることが判明し、論文執筆を進めた。また、1での史料蒐集・調査から、12世紀後半に政治と宗教の関係が変化する可能性があると考え、奈良女子大学古代学学術研究センター研究会「福原の時代」で「福原遷都と伊勢」と題して発表した。この研究発表の一部を論文「中世成立期の平安京と内侍所神鏡」と題して執筆し雑誌『奈良歴史研究』への掲載が許可された。拙稿では、アマテラスを正体とする内侍所神鏡・平安京・天皇との関係性の変化を整理して福原遷都を機に内侍所神鏡=アマテラスが平安京と空間的に結びつくことで「万代の都」平安京の言説化が進展することを明らかにし、中世成立期の宗教の政治的機能を都市史・政治史と関連させて説明することができた。