著者
横地 雅和 高山 茂之
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C3O1135-C3O1135, 2010

【目的】人工膝関節置換術(以下TKA)は関節リウマチ(以下RA)や変形性膝関節症(以下膝OA)患者の除痛効果が得られ、ADLやQOLの向上につながり、近年広く施行されている手術法である。当院においてもTKAは多く施行されているが、その術後の特徴として膝関節屈曲時に大腿内側部痛を訴える症例が圧倒的に多い。今回、TKA術後の大腿内側部痛の解釈とその運動療法について考察したため報告する。<BR><BR>【方法】当院で平成21年4月から9月までにRA又は膝OAと診断され、TKAを施行し、演者が理学療法を担当した12例13膝について検討した。RAは4例5膝(両側TKA例1例)、膝OAは8例8膝であった。年齢は38歳から85歳(平均年齢71歳)で、性別は男性2例、女性11例であった。TKAは全例でDepuy社製P.F.Cシグマ人工膝関節システムを用い、進入法はmid vastus法にて展開した。検討内容としては膝関節屈曲時に大腿内側部痛の割合について検討を行った。また、大腿内側部痛を訴えた症例については1,疼痛の発現時期2,知覚・感覚鈍麻の有無3,圧痛所見の有無4,股関節の肢位における膝関節屈曲可動域と疼痛の変化5,運動療法の効果についても検討を行った。<BR><BR>【説明と同意】本研究を行うにあたり対象者に研究の主旨を説明し、同意を得た。<BR><BR>【結果】TKA術後に大腿内側部痛を訴えた症例は13例中10例(76,9%)に認めた。疼痛の発現時期は全例が術直後よりみられ、膝関節屈曲時に疼痛は増強し、VASで7~9と耐え難い疼痛を認めた。知覚・感覚鈍麻を認めた症例は10例中9例であり、膝関節内側から下腿の内側部に知覚鈍麻を認めた。また、圧痛所見としては、内側広筋に全例に認め、内転筋結節には9例認め、そのうち7例は大腿内側に鋭い疼痛を訴え、大腿から下腿の内側にかけて広範囲に放散痛を認めた。股関節の肢位における膝関節屈曲可動域の変化は全例に股関節内転位にて屈曲可動域の増大を認めた。また、股関節内転位にて疼痛が軽減し、外転位にて疼痛が増強するものは9例に認めた。運動療法は大腿内側部痛を訴えた群には浮腫除去や内側広筋のリラクゼーション、大内転筋のストレッチング、伏在神経の滑走訓練を重点的に行い、その後、膝関節可動域訓練を実施した。その結果、退院時(術後3週)における大腿内側部痛は全例に軽減(VAS0 ~3)を認め、そのうち6例は消失した。<BR><BR>【考察】TKA術後は炎症による疼痛や可動域制限を認め、苦痛を伴うことも稀ではない。当院でのTKA術後の膝関節屈曲時痛は圧倒的に大腿内側部に多く、その割合は76,9%と多くの症例に認め、安静時にも疼痛を認めることもある。また、膝関節から下腿の内側にかけてしびれや感覚鈍麻を合併していることが多いことから、疼痛の原因としては伏在神経が関与していると推察した。伏在神経は膝関節内側から下腿の内側の皮膚神経支配をしている。走行としては大腿神経から分枝し、大腿内側を走行し、内転筋管を通過して下腿内側を走行するといった解剖学的特徴をもっており、股関節外転、膝関節屈曲にて伸長される。股関節外転位での膝関節屈曲時に疼痛が増強し、内転位にて疼痛が軽減することからも膝関節屈曲時痛は伏在神経が関与していると考えられた。石井によると伏在神経は内転筋管での絞扼神経障害が生じやすいとしている。TKAの進入法はmedial parapatella法やsubvastus法、midvastus法で展開されることが多く、当院でのTKAの進入法はmidvastus法を用いている。midvastus法は大腿四頭筋腱の付着部まで展開し、内側広筋の筋線維に沿って筋膜を展開する方法で他の進入法に比べて内転筋管の近くにまで侵襲が及ぶ進入法である。術後には浮腫や腫脹により内圧が高い状態に加え、内側広筋やその周囲へと炎症が波及することで伏在神経の絞扼障害と滑走障害が生じていると考えた。運動療法については伏在神経の絞扼・滑走障害を起こしている因子を一つずつ改善することを目的に浮腫除去や内側広筋のリラクゼーション、大内転筋のストレッチング、伏在神経の滑走訓練を実施した。その結果、膝関節屈曲時における大腿内側部痛の軽減・消失し、改善したと考えた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】当院におけるTKA術後の膝関節屈曲時痛について検討した。疼痛の誘発と軽減する条件や圧痛所見などから伏在神経が関与していると推察した。疼痛因子を把握することは運動療法を進めていくには重要であり、ROM制限因子ともなりうる。今回の検討によって膝関節屈曲可動域訓練時における過分な疼痛を軽減することができたと推察される。進入法を考慮した運動療法を展開することで、疼痛軽減につながる経験を得たことは、理学療法学研究として意義があると考える。