著者
櫻井 かのこ 山本 政幸
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.2_31-2_40, 2022-09-30 (Released:2022-10-01)
参考文献数
3

シピ・ピネルズ(Cipe Pineles, 1908-1991)は,第⼆次世界⼤戦後のアメリカの出版業界で活躍し,20世紀における経済成⻑と社会変動の時代に重要な役割を果たした。その貢献のひとつは,当時新たに存在感を増した⼤衆雑誌,とりわけ若い⼥性をターゲットにしたファッション誌の編集に携わったことである。⼥性初のアートディレクターとして数々の編集に関わり,10代の⼥性や働く⼥性というこれまで社会的にも経済的にも⽬を向けられていなかった⼈々に注⽬し,誌⾯構成を駆使して広い読者層を取り込むことにより,新しい視覚⽂化を⽣み出した。グラフィックデザイン界で数々の功績を収め,⼥性の社会進出に向けた先駆的な役割を果たす⼀⽅で,仕事のストレスや⼥性としての幸せに思い悩んだ末に⾃殺未遂を図るなど,公私のコントラストが際⽴つピネルズの⼈⽣は,⼀⼈のデザイナーの成功事例を⽰すだけでなく,性差別や社会問題に取り組む現代社会において⽰唆に富む内容といえる。本研究は,新しい⼤衆雑誌づくりの基盤を築き,⼥性のためのデザインの歴史をつくったピネルズの業績を明らかにする。