著者
櫻井 全
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.85-92, 2018-08-01 (Released:2018-08-15)
参考文献数
54

数千種におよぶウミウシのうち数十種において遊泳行動を示すことが確認されている。ウミウシの遊泳行動には体を背腹方向に屈曲させるものと左右に屈曲させるものに大別されるが,遊泳する種の系統樹上における分布には明瞭な規則性が見られない。例えばトリトニアとウミフクロウはよく似た背腹屈曲型の遊泳運動を示すが,系統的に遠戚であるため独自に獲得した行動と考えられる。それでも遊泳の運動出力パターンを作り出す神経回路には相同なニューロンが含まれ,回路構成にも類似点が多く見られる。 さらにセロトニンによる神経修飾作用が遊泳パターン発生において重要な役割をも持つという点においても共通している。一方,スギノハウミウシとメリベウミウシを含む単一系統群では,共通祖先から受け継いだ相同な左右屈曲型の遊泳行動を示すが,遊泳パターン発生回路のデザインや相同ニューロンの機能に大きな違いが見られる。つまり行動の類似性や相同性から神経回路の類似性や相同性を予測することは難しい。このようにニューロンの同定と種間比較が容易であるウミウシの遊泳パターン発生回路は,定型的行動の進化を考える上で有用な研究材料である。