著者
櫻庭 浩之 小林 琢也
出版者
岩手医科大学歯学会
雑誌
岩手医科大学歯学雑誌
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-13, 2014

不適切な下顎位で補綴治療が行われると, 咬合の不調和を引き起こし咬合接触の異常や下顎運動の異常を生じ, ひいては全身機能に影響を及ぼすとされている. 下顎偏位がストレス反応を介して, 不快や痛みのネットワークを賦活させることはこれまで報告されているが, その偏位方向や運動の種類による賦活の差に関しては検討されていない. そこで本研究は, 下顎偏位が脳機能に及ぼす影響を明らかにするために, 下顎を水平的偏位させた状態で Tapping 運動と Clenching 運動を行い, 非侵襲的脳マッピング法の1つである functional Magnetic Resonance Imaging ( fMRI ) を用いて脳機能応答の変化を観察した.<br> 実験は右利きの健常有歯顎者10名に咬頭嵌合位 (コントロール) と前方,左方および右方の下顎偏位条件でTapping運動とClenching運動の2種類の課題を行わせた. 画像解析を行い賦活部位の同定を行った後, コントロール条件と偏位条件での脳活動量の比較を行った. その結果, Tapping 運動時に,下顎偏位条件ではコントロール条件で賦活が認められなかった扁桃体に賦活が認められた. 扁桃体における脳活動量を比較すると, コントロールと比較して各水平的偏位条件で有意に活動量が増加していた. 一方, Clenching運動時には,下顎偏位条件ではコントロール条件で賦活が認められなかった腹内側前頭前野と扁桃体に賦活が認められ, これらの部位における脳活動量もコントロールと比較して各水平的下顎偏位条件で有意に増加していた.<br> これらの結果より,下顎の水平的偏位は偏位方向や運動の種類によらず不快を引き起こし, とりわけClenching運動においてより強い不快応答を伴うと推測される.