著者
權 五載
出版者
九州芸術工科大学
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は,携帯電話やPDA機器などの小さな情報表示部に多量の情報を表示する際,動的な文字表示方法と文字のサイズが心理的に与える影響と,Eye gazeインタフェースにおける注視点の吸着効果が心理的,生理的に与える影響の考察から,インタフェースのユーザビリティ評価法に有効な知見を求めるものである。本論文における,第2章と第3章はユーザインタフェースを評価するためにパフォーマンス評価と心理的な評価法として主観評価法を用いた。第4章では文字を入力する際のパフォーマンスと,ユーザの心理的,生理的な負担を評価し,その有効性を検証した。通常,ユーザインタフェースの評価は主観評価法を用いて評価することが一般的であるが,本研究では脳波測定を行い,ユーザの主観的な反応と生理的な反応を比較してみることで,より客観的な研究結果を求めたことが特徴である。 / 携帯電話の情報表示部における文字の動的表示 / 2章の研究では,携帯電話の情報表示部に動的文字表示を取り入れた表示方法がユーザの認知的な負担に与える影響を評価し,電子メディアにおける効果的な文字表示方法について考察を行うことが研究の目的である。限られたサイズの表示では,認知に係る負担が少ない表示方法が要求されている。このような認知に係る負担を軽減させる表示方法を探る為に,5種類の動的文字表示方法を用いてユーザが動的文字を認知する過程で現れる心理的反応について考察した。実験を行うために5種類の動的文字テストツール(縦スクロール表示,横スクロール表示,画面切り替え表示,一文字・RSVP表示,一文節・RSVP表示)を設計した。コンテンツはJAVA言語で作成し,Power Macintoshの画面に表示した。被験者は,14人であり,携帯電話を使用している者とした。評価は,読解力テストと主観評価を行い,ANOVAを用いて分析した。読解力テストの結果,5種類の刺激すべてで88.6%以上の正解率を見せ,文章間の難易度差が少ないことを示した。また,読みやすさの主観評価を行った結果,刺激Bの「横スクロール表示」と刺激Dの「一文字・RSVP表示」との間に有意差(P<0.05)がみられた。「横スクロール表示」は,読みやすいと感じる表示速度が速くはないが,心理的評価から認知に係る負担が少ないことが言えた。また,認知的な負担が多いと思われる「一文字・RSVP表示」は,文字をちらつかせ,一文字づつ画面の中央に表示する方法であり,認知的な情報処理の過程で多数の認知的な負担が増加しているものと考えられる。結論として本研究では表示方法として,文字数の少ないコンテンツを小さな画面で読む場合はBの「横スクロール表示」,文字数の多い小説などのコンテンツを読む場合には効率の良いCの「画面切り替え表示」やEの「一文節・RSVP表示」が推奨できる方法であるとした。これらの表示方法は目的に応じて提供した方が良いと考える。 / PDA機器の情報表示部における文字サイズの読みやすさ / 3章の研究では,PDA(Personal Digital Assistant)機器の情報表示部で電子書籍を読む際,文字のサイズがユーザの認知的な負担に与える影響を調査し,主観評価を行い結果を考察したものである。 / 「電子の本」は「紙の本」に比べて大量の情報を簡単に持ち運べることが長所であるが,小さい画面や情報表示部の解像度が印刷物に比べて低下することで,ユーザの心理的な負担が心配されている。本研究では,表示文字のサイズと心理的な負担に関する知見を得る為に,5種類の文字サイズ(8point, 10point, 12point, 14point, 16point)を用い,各サイズ別の文章を読む時に現れる心理的な反応を主観評価した。その結果,表示した文字サイズの中で心理的に読みにくかった文字サイズは8pointであった。 / 有意差検定から得た結論として,最も小さかった8pointの文字サイズはPDAで文章を表示する文字として小さすぎて不適切であり,表示文字サイズは8point以上であることが望ましいと言える。次に,各サイズの主観評価値の示す傾向では,10point, 12point, 14pointと評価が良くなっているのが,16pointで評価が下がっていることを重要視したい。さらに,PDAの限られた情報表示部分で,16point以上のサイズの文字を用いると一度に表示できる文字数が少なくなり,10pointの表示文字と比較すると,文字数で約半数になり,効率が悪いと言う理由から,16point以上の文字サイズはPDAで文章を表示する文字として大きすぎて不適切であり,表示文字サイズは16point以下であることが望ましいと考える。 / Eye Gazeインタフェースにおける注視点の吸着効果 / 肢体が不自由な障害者のコミュニケーション手段として有効であると注目されているユーザインタフェースの一つがEye Gazeインタフェースである。しかし,視線移動による操作は非常に難しく,使いやすくする為にはユーザインタフェースを改善する必要がある。4章の研究では,現在のEye gazeインタフェースの使用において頻繁に現われる注視点ズレ現象を解消させることに着目した。画像要素にカーソルを吸着させる効果を取り入れたインタフェースを考案して制作し,心理的な評価と生理的な評価を行い,注視点の吸着効果の有効性を明らかにした。注視点の吸着効果とは,ユーザが実際に注視しているところからズレている視点を実際に注視しようとしているところに吸着させる方法である。 / 実験の結果,吸着効果のないものより,吸着効果のあるもの方が文字入力がしやすく,生理的な負担が少なかった。これは,Eye Gazeインタフェースの問題点である錯視現象の影響による注視点ズレ現象と人の生理的な眼のメカニズムによるサッカード運動などが吸着効果の適用により,解消したためであると思われる。主観評価の結果,吸着効果のあるものは吸着効果のないものと比べて相対的に高い評価値が現われた。それは,周辺視や近接の法則及び形の判別視知覚の現象による注視点ズレ現象が表われているにもかかわらず吸着効果の影響による注視点ズレ現象が緩和され,心理的な負担を軽減させたものと考えられる。また,生理的な反応を分析した結果,A:吸着効果ありよりB:吸着効果なしで全般的にSlowβ波とFastβ波が有意に高かった。これは,Bのインタフェースを操作する際に,AよりBでα波が減少し,β波が増加したことから,AよりBのほうで脳活動が活発に行われたものと思われる。すなわち,AよりBの方が文字入力遂行中に負担を受けているか,より多くの精神集中あるいは精神活動が活発に行われているものと考えられる。このような結果により,吸着効果を適用することで注視点ズレ現象が解消し,操作がしやすく負担が少なくなったものと考える。 / 以上の結果により,本研究でコーザインタフェースを評価する方法として用いた,心理的,生理的な評価は,タスクを遂行する際に現れる心理的な要素と生理的な要素を把握することに重要な役割を果たし,インタフェースデザインのユーザビリティ評価に有効であることを示した。